悪魔降臨






「リョーマ君!!」





カチローの叫び声が聞こえたから何だろうと思い、行ってみたら

見知らぬ男がカチローにサーブを放っていた

俺は急いでカチローの前に出てそのサーブの球を打ち返す


「何なの、この騒ぎ」

「き、気をつけて!コイツ何かヤバイよ!!」


カチローにサーブを放った男に目を向けると、そいつは俺を見るなりニヤッと笑みを作った

その男はわけのわからないことを言ってきた

目つきの悪い男(山吹中3年の阿久津っていうらしい)は俺を知っているらしいけど、俺はコイツなんて見覚えが無い


「・・・・・・・あんたのこと知らないんだけど?」


そう言うと、目つきの悪い男は下にあった石を掴んだ

「あのトサカ野郎石拾ってどうする気だ。おい、まさか・・・!?」


あぁ、この先輩居たんだ


俺がちょっとよそ見をしていた間に目つきの悪い男は石でサーブを繰り出してきた

先輩が叫んでいる中、俺はそれを打ち返した

「おおーっ越前うまいっ」

まったく、あの先輩少し黙っててくれないかな・・・

目つきの悪い男は今度は数個、石を握った


まずい!またアレでサーブをするつもりだ・・・!






「ちょおっと待ったぁ―――!!!」






サーブの体勢に入った男は声に気づきサーブを止めようとしたが止めきれずにサーブを繰り出してきた

石が、飛んでくる

その石を上からラケットがタイミングよく落ちてきて2・3個、石を打ち落とした

ラケットが落ちてきた場所に気をとられたせいで余った石が俺の顔やら手首に当たった

俺はあまりの出来事に思わず膝をついてしまった

そんな俺の目の前に、フワリと現れた人物がいた


「何だテメェ・・・」

「ボク・・・・・・?」


・・・この声は・・・・・・・アノ人か・・・

ていうか、三階から飛び降りて足の骨は大丈夫なのか・・・?







「ボクはこの学園を守る

 愛と勇気だけが友達の

 学生服美少年戦士 、だ!!」








アノ人・・・先輩は鼻で笑うと突然こんなアホなことを言い出した

しかも、ちゃんとキメポーズもつけている

抜け目のない人だ


「コイツ・・・アホか?」

目つきの悪い男が先輩を指差しながら言ってきたので

俺は思わず力強く頷いてしまった


「なっ!失敬な!関東人はバカっていわれるよりアホって言われた方がムカツキ度が高いんだぞ!!あれ?逆だっけ?」


先輩は叫んだと思ったら悩みだした

悩むのに疲れたのか先輩はクルリと向きを変え、俺の方にしゃがみこみ俺の顔を見た


「まぁ!リョンリョン!お顔に傷が!」


今更っ!!?

しかも、わざとらしくも両手を自分の頬に当てて叫んでいる・・・

そして、すぐさまあの不良の方に向き合い側に転がっていた石を2・3個取ると立ち上がった

そのときの先輩の顔は今まで俺が見たこともない顔つきになっていた



「今日は・・・もう、帰りな。そこの不良君」



いつもはヘラヘラしているのに、このときの先輩の口調はいつになくかっこよかった

あ・・・初めてこの人が先輩らしく見えてきた


「あ?俺に指図する気か?」



「指図ぅ!?これは命令だっ!!!」






バッゴンッ!!!





そう言うと先輩は手に持っていた石を
握りつぶした


うわ・・・すご・・・・・・・

先輩は俺に背を向けている状態だから、今どんな表情をしているのかわからないが

あの不良と荒井先輩の顔色を見る限り、なんかヤバそうだ


「ケッ」


不良はそれだけ吐くとクルリと向きを変えて校門へと歩いて行った

それを黙って見送る先輩・・・


俺はおそるおそる、先輩の表情を覗いて見た


「・・・・・・!!!!」


いや、もぅ・・・なんと言っていいのかわからないけど・・・・

先輩はまるで、この世の汚物を見るようなそんな氷のような冷たい目をして

いつもは笑顔のその顔を氷の仮面をつけているかのように無表情な顔をしていた

しかし、その口元には静かな静かな怒りを灯した笑みがその無表情な顔に貼り付いていた

心なしかさっきからここ周辺の温度が下がっているような気がする


これは・・・いつもの先輩を見慣れた人の方がこの変貌っぷりに呆然とするだろう

荒井先輩なんて放心状態だ




俺の視線に気づいたのか、先輩は視線を俺の方に向けた

俺の方に視線を向けると、先輩はいつものように人懐っこい顔を見せた


「あーすっかりリョンリョンの怪我のこと忘れてたよ。保健室に行こっか」

「・・・っス」

俺は素直に頷き先輩とともに保健室へ行くべく歩き出した




今日のことで分かったことが一つ

先輩がキレルと恐ろしい










俺は今、先輩に連れられて保健室にいる



「あーあ・・・せっかくさんとテニスする約束をこじつけたのになぁ〜」

こじつけたんだ・・・

先輩は残念そうに呟くと、俺の頬に絆創膏を貼った

「テニスなら俺としましょうよ」

「ヤダよーリョンリョン手加減してくれないじゃん」

頬をプクーと膨らまして言う先輩

あんた一体、何歳だ

「そういえば、その・・・っていう人、先輩の何っスか?」

「え〜と・・・世話係?以上恋人未満ってとこかな〜」


世話係って・・・!

しかもなんで疑問系!?




ガラッ



俺が心の中でツッコんでいると保健室のドアが開いた

「あ!スミレンちゃん」

「その呼び方は止めろって言ってるじゃろ、!」

保健室にやって来たのは竜崎先生だった。しかも、先輩が呼ぶあだ名が心底嫌なようだ

「あははは。それじゃ、後はよろしくお願いしますね」

先輩は笑って誤魔化すと、そそくさと保健室から出て行った

ここで、俺は先輩にはぐらかされたのだと気が付いた


「傷の手当てはちゃんとしておるな。・・・で、誰にやられたんだい?リョーマ」

「転んだだけっス」








先輩達にも傷のことを聞かれたけど「転んだ」と言って誤魔化しておいた

あの、山吹中の阿久津とかいう目つきが悪い男は俺が絶対にテニスで借りを返してやる!


「腹減ったな。ハンバーガーでも食いにいかね?」

「いいっスね」

「おっ桃!俺も俺も!」

丁度いいところに菊丸先輩が現れた。俺と桃先輩はそろって、ニィッと笑みを浮かべた











「英二先輩、ごちそうさまっス!」

「っス」

「容赦ねぇな、お前らっ」


俺と桃先輩は英二先輩にハンバーガーをおごってもらった

ハンバーガーを頬張りながら歩いていると

俺の目にある一人の挙動不審な行動をしている人物を見つけてしまった

俺は気づかれないように気づいてない振りをしてファミレスの前を通ろうとした

だけど、人生そんなに甘くはなかった

むしろ、辛い方だと思う


「何やってんの??」

看板の後ろから頭を出してファミレスを凝視している先輩に菊丸先輩が声をかけた

「うわっ!!驚かさないでよマルマル!」

「で、先輩。こんなところで何をやってるんっスか?」

桃先輩が訊ねる

「ん〜ちょっとね〜・・・ボクの友達がかわいい女の子連れてこの中に入って行ったから気になって」


「デートだな」


ニョキっと急に乾先輩が現れた。いつの間に!?

「うわぁ!乾、いつのまに!!?」

「やぁ、さっきからの行動を監視していたんだよ」



さっきから先輩の何かのデータをどっかから覗いて取ってたんだ・・・





「やっぱ、そう思う!?やっぱ、デートなんかな・・・

 だとしたら、友達のこのボクが!

 二人のお付き合いの後押しをしてあげないと!!!」





先輩は真剣な表情で本人達からしてみれば、はた迷惑なことを言った





絶対、先輩が動かない方が上手くいくような気がする





先輩は意を決してファミレスへと足を向けた

それに続いて桃先輩やら菊丸先輩、乾先輩までもが続いていく

しょうがないので俺もこの人達に付き合うことにした





席に着くと早速、俺は特大ベリーチョコレートパフェを頼んだ

「おチビいーの頼んでんじゃん!!」

先輩の奢りでお願いします」

「えっ!?ボクが払うの!!?」

「そんじゃ、先輩。ゴチになりまーす」

「しかも、もう決定事項!?」

パフェにかぶりつきながら、俺は先輩に質問をした

「で、誰が先輩の友達なんっスか?」




「あひょしょのへぇひのひゅりょはみにょもへ」




先輩は輪切りにされたバナナを頬張りながら答えた

そのせいか先輩は



人間が喋る言葉ではない言葉を喋った



、ちゃんと食べてから喋った方がいいぞ。何を言ってるかさっぱりだ」

乾先輩の指摘で、先輩はバナナを一生懸命食べようとしている


もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぅぐもぐもぐもぅぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぅぐもぐもぐもぅぐもぐもぐもぐもぐ・・・


いつまで噛んでるんだこの人は


ごっくん!


あっ、やっと飲み込んだ


「えーと・・・あそこの席の黒髪の人が、ボクのお友達」

バナナを飲み込んだ先輩は指をさしながら言った

・・・この角度からじゃあ顔は見れないな・・・・・・でも、女の人の顔は見れた

「あっ!誰かやってきた!」

菊丸先輩がパフェのアイスクリームを口にしながら言った

「もしかして、これは・・・修羅場!?」

先輩が口元に手をやって叫んだ

「あの、女の人が浮気しててそこへ現れた本当の彼氏!ってとこか?何かしこんでじゃねぇ?」

カメラ、カメラ。と、呟きながらテレビ局のカメラを探す桃先輩

早とちりもいいとこだし

白らんを着た人は二・三言ぐらい先輩の友達っていう人と話すと女の人の隣にどかりと座り込んだ

まわりが五月蝿くて何を言っているのかわかんない

俺は後から来た男の顔を見つめた






俺の身体がゾクリと、鳥肌がたった






「いや・・・あの男・・・・・・越前を襲ったという阿久津じゃないか?」


乾先輩がデータノートを広げながら他の3人に告げた

すると、先輩の表情がひきつった

今まで散々でかい声で騒いでいたのに急にひそひそ声で喋りだす、菊丸先輩と桃先輩

先輩の表情は固くなったままだ

周りが静かになってくれたおかげで話している声が聞こえるようになった



「やっぱ、お前だったんだな・・・」

「本当に久しぶりだな、。空手道場いらいか」


どうやらあの二人は知り合いらしい


「悪いけどさ、ウチの生徒に手を出さないでくれるかな。もし、の知り合いに手を出したら・・・・・・後が怖いぞ」

「・・・・・・あ、あぁ」


なんかしんみりしてる

阿久津は先ほどの出来事を思い出してか心なしか顔が青ざめていた


「それから、優紀ちゃんにあんまし心配させんじゃ・・・・」


先輩の友達、という人に阿久津は水を頭からドクドクとかけた


「俺に指図すんなよ。おい、。お前、そんなくだらないことで俺を引き止めたのか?それなら俺はもう帰るぜ」


阿久津はスタスタと俺達が座っている席へとやってくる

それにつれて、桃先輩の瞳が怒りで燃え上がった

正義感の塊のような人だ。きっと目の前でおこった非道な出来事に煮えくり返っているのだろう

菊丸先輩の制止の言葉も聞かずに桃先輩は立ち上がろうとした


桃先輩の動きに気をとられていた阿久津に、俺は足を出して、阿久津を転ばせた


「ナイスッ!リョンリョン!!」


突然のことに他の3人は呆然としてる中、先輩はすっごく嬉しそうな顔でガッツポーズをした


「さっきはどーも。自己紹介がまだだったよね。青学1年、越前リョーマよろしく」


「正式名称は青春学園だけどね!」


先輩はさり気なく小声でウチの学校の正式名称のことを言った





せっかくの決め台詞を・・・・・!!!






阿久津は俺を睨みつけてくる

すると、突然水が阿久津の上から降ってきた

いや、先輩によってかけられた


「フフフフ。ゴメンネ〜手がすべっちゃったぁ」


先輩は謝っているのに、全然ゴメンなさいという気持ちが一ミリも含まれていなかった

しかも、なんかいい笑顔で水をかけてるし

菊丸先輩達はさらなるこの思いがけない展開に口をあんぐりと開けている


「テメェ・・・」

「これで・・・おあいこ、でしょ?」


水をかけた先輩に阿久津は睨みをきかせる

それをサラリと笑顔で受け止める先輩



でも、目が笑ってない



「そこまでにしとけ。二人とも」


今にも一触即発しそうな中で声をかけたのはさっき阿久津に水をかけられた人だった


さん」


やっぱり、この人がっていう人だったのか

なんか、カッコイイなぁ。この人


「ほら、もう行くぞ」

「う、うん・・・」


っていう人は先輩の背中を押して店を出ようとする


「おい、阿久津。そこのパフェの金、払ってくれたらクリーニング代は見逃してやるよ」


最後にそれだけ言うとっていう人と先輩は店を出て行った

続いて阿久津もパフェ代を払ってから店を出て行った。その後を追うように女の人も店を出た



阿久津って・・・中々、律儀な人だった




それぞれが店から出て行った後、先輩達が思い思いの言葉を呟き出した


がキレてるとこ見たの初めてだにゃー・・・」

「俺もっス・・・・・・・・」

「はっ!いかん!データを書かなくては!!」



フッ先輩達、甘いっスよ


俺なんてもっとすごいものを見たからね


できれば、もうあんな状態の先輩は見たくはない







こうして、阿久津事件は幕を落とした













+++あとがき+++

阿久津との出会い編&主人公のブチ切れ編は終了!

そういえば友達に

「石を握りつぶせるくらいなんだから、って一体握力いくつなの?」

って聞かれてハッ!としました。

う〜ん・・・握力ねぇ・・・多分36くらい?

んで、キレるとなんらかのエネルギーが注入されてあんな怪現象がおこったのだと思われます。

なので君は怒らせちゃあダメです。

何が起こるかわかったもんじゃないからです。

これは一つの教訓です。(笑)