一日一本






「ふ・・・副会長!なんてもの飲ますんっスか!?」





先輩は仁王立ちに生徒会執行部の須崎は先ほど、副会長に飲まされた乾汁の被害者だ

ちなみに執行部とは雑用係、みたいなものだ


「どうだ!!これでこの汁の恐ろしさがわかったか!」


須崎を見下ろし指を突きつける先輩


「さぁ!今日から君も乾汁のレジスタンスの仲間入りだ!」


レジスタンス・・・


「こんなもの、世に存在してはいけないんだよ!」

「そうっスよね!わかりました!俺も力及ばずながら協力させてもらいまっス!」

「よし!頑張ろうではないかザキ君!」


先輩は須崎の手をとりブンブンと振った


「そもそも、なんでこの汁を飲ませようとするんですか?」

「そうですよ〜先輩〜おかげで私、おばあちゃんと再会しちゃいましたぁ〜」


俺と同じ書記の莉璃がいつも通りのおっとり口調で口論する。この子のあだ名はリリィだ。あんま変わんないけど

俺もこの間、莉璃と一緒に先輩に、お茶と偽られた汁を飲まされた

俺が思うに・・・そんなにまずくはなかったが


「フッ・・・!知れたこと!この汁の不味さを知ってもらい、レジスタンスの圧力を持って乾汁を抹消するのだ!」


力説する先輩にどこからかスポットライトが当たっている気がするのは気のせいか・・・?


「と、言うことは先輩もあの汁を飲んだんですよね?」


俺の友人の会計の桑射が先輩に言う。皆からは殿と呼ばれている

奇跡的にコイツは乾先輩の気配を感じてお茶と偽られた乾汁を飲まなかった


「もちろんだとも!」


先輩は乾汁製造レジスタンスの動悸を語った





******





そう、あれは・・・家で作ったモンブランとこの前、部活で作ったゼリーを取りに第一調理室へ行って

第二調理室の方から何か音がしたから覗いてみたんだ…

そしたら…

ヌイヌイ(乾のこと)が何やら野菜をテーブルに広げてザクザクと切り刻んでいた

ボクはヌイヌイに何をしているのかと訊ねてしまったんだ

この時のボクに言えることなら言いたいさ

何て馬鹿なことをしたんだ!!




「あれー?ヌイヌイじゃん。何を作ろうとしてるの?野菜炒めか何か?」

「やぁ、か。新しい野菜ジュースの開発をしているんだよ」

「野菜ジュースねぇ・・・」


ヌイヌイは切り刻んだ野菜を片っ端からミキサーに入れていった

材料は―・・・ピーマン、キャベツ、ほうれん草、セロリ、小松菜、パセリ、青しそ、レモン、ハチミツ、しょうが



「なんか、身体によさそうなものばかり入ってるね」

「よく気が付いたな。さすが家庭部に所属しているだけはあるな」

「えへへ。身体にいいって言えばコレとか、コレとかコレとかもそうじゃない?」

「ふむ。の考案に賛成して、入れてみるか・・・」



こうして新たに、きな粉、納豆、酢(5滴くらい)それと、ゴーヤ、イナゴが加わった

それらをミキサーに入れ終わった後に


「・・・そして、最後に隠し味を入れて・・・・・・」


ヌイヌイはドロリとした液体を中に入れた

その液体は今、話題のノニ!
しかも原液!!!だった

ヌイヌイはノニの原液を入れ終わるとミキサーをかけ始めた



ガ――――・・・



ボクはそのおぞましい物体が出来る様子を興味津々に見つめていた

この時のボクに言えることなら言いたい

何故、早くに退散しなかったのか、と



「よし、完成だ。どうだ?。少し、味見をしないか?」

「味見・・・これを・・・?」



完成した野菜ジュースを見つめる

さっき、身体に害がある物は何も入っていないのを見ていたけど

この毒々しさを見たら、思わずたじろいでしまったよ

でも、その時のボクは好奇心に負けて汁を飲んでしまったのさ!

自分の愚行に涙が出るね。ホロリ。



ゴク・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ブ―――――――ッ!!!!!!」




あまりの不味さに思わずヌイヌイの顔めがけて汁を吐き出してしまったよ。ハッハッハッハッハッ★



「ま、まずい・・・
なんて物を飲ましてくれたんだヌイヌイ!!

「いいデータが取れた。乾汁を飲んだの反応は…」


ヌイヌイはハンカチで拭きながらブツブツと呟きながらボクのデータをとっていた

この時からボクの反、乾汁は始まったのだよ!






******






先輩の話が終わった

ようするに、乾先輩への復讐ってことだよな―・・・

というわけは、俺達は先輩の個人の恨みに巻き込まれているということかっ!?


「あら?先輩、ゼリーはこの前ご馳走になりましたけど、モンブランはどうしたんですの?」

生徒会執行部の柊が先輩に尋ねた。先輩の名称ではヒラとなっている

「あのモンブランは他校の人にあげたよ」

「ま、まままままさか!ワイロですか!?先輩!」

会計の姫香がわざとらしく言う。姫らしくないのにあだ名は姫だ

「あはははは。そんなんじゃないよ。この間、ちょっと助けられたからそのお礼に持って行ってあげたんだよ」


先輩を助けるなんて物好きな奴もいたもんだ、と思いながら先輩と生徒会メンバーの話を聞いていた

話が脱線し過ぎているのでそろそろ元に戻そう


「で―…レジスタンスって具体的に何をするんですか?」

手を挙げて発言する俺、通称ギャンブラー

「そこを皆に考えて欲しいんだよ」

そう先輩が言うと皆して一斉に悩みだした


「「「「「「う〜〜〜〜〜ん」」」」」」




乾汁…ってそんなにマズクなかったんだけどなぁ……

俺を除く皆は乾汁の不味さに卒倒してたけど

噂によると、不二先輩は乾汁を「おいしい」と言っていたそうだし

ちなみに、これは桃城情報だから間違いないはずだ



…と、いうことは………



俺の少ない脳みそが一気にふる活動をし始めた

俺は瞳を閉じてシャーペンをクルクルと回しながら思考をめぐらす

いつの間にか辺りは静かになっていた

考えがまとまって俺は瞳を開けた

何故か皆が俺に注目している


「何かいい案、浮かんだ?」

先輩がキラキラした瞳を向けながら俺に訊ねた

俺は笑顔を向けて今、考えたことを話し出した


「ええ。これならきっと乾汁滅亡はできると思いますよ

 作戦名はズバリ

 『一日に必要な栄養素が詰まった野菜汁を一本飲んでみんかね!』

 略して

 『一日一本!』です!」













** 海堂 薫 と 野菜汁 **








久しぶりに学食を利用しようと行ってみたら、聞きなれた声が響いた



「さぁさぁさぁ!あの、不二 周介もおいしいと言ったこの野菜汁を飲んでみないかね?」



聞きなれた声だと思ったら桃城のクラスにいる武蔵じゃねぇか

しかも、何か知らないが乾汁を食堂で売っている





「天国に行けちゃうほどのこのお味っ!買わなきゃ損々!料金はたったの50円!!」







確かにある意味、天国に逝けることには違いないな








あんな汁を善良な生徒に売りつけていいのか・・・?

まぁ、俺が心配しなくても誰もあんな怪しげな飲み物を買うわけがないか

俺はきつねうどんと天ぷらを頼んで空いている席に座ってズルズルとうどんをすすった






「はい!毎度ありー」







ブッ・・・!!!




思わぬ出来事に危うく



鼻の穴からうどんが出そうになった







しかし・・・なんで皆あんなものを買っているんだ!?

食堂に来ている連中は皆、手に乾汁を持っている









・・・全員自殺志願者なのか!!?







「おーっス!海堂。珍しいな、お前が学食利用するなんてさ」


ニシシ、と笑いながら俺の真向かいにドカッと座ったのは武蔵の友人の桑射

桑射は俺と同じクラスでもある

いつもながら態度がでかい

それゆえに周りの連中からは殿って呼ばれているんだろうが…


「それより、アレはどういうことだ桑射」

「アレ?」

「・・・乾汁のことに決まってんだろ。一体、何を企んでやがる」

「あー、あの野菜汁のことね。実はさー反乾汁勢力を作ろうって副会長が言い出してさー」

先輩がっ!!?」


また突然、何を言い出したんだあの人はっ!!


「それで今、ああやって野菜汁を渡して、不味かったらレジスタンスに加わってもらい

 勢力をつけてその勢いで野菜汁製造を辞めさせる・・・といった流れの段階なのさ」

「・・・武蔵がそれ、考えたのか?」

「うん。そう」

「やっぱりか。随分と回りくどいことをするんだな」

「うん。俺もそう思う。だけど副会長が言うんだよ。“レジスタンスっていう響きがいいんじゃないか!”ってね」


結局は先輩の変な思考力のせいなのか

あの人、ただ単にレジスタンスを作りたいだけなんじゃ・・・

先輩もかなり変わっているが、コイツら生徒会メンバーも

あっさり先輩の言葉を飲み込んで実行に移す辺り、かなり変わっている

そんな奴らの頭にいる手塚部長はきっと大変なんだろう・・・


「しっかし、すごいよなー野菜汁の売れ行き。どれもこれも不二先輩効果なんかねー」





不二先輩効果か・・・

なんか恐ろしいな









野菜汁は確実に校内で流行り始めた

飲んだ物は不味いという事実を口には出さずに相手にも自分と同じ苦しみを味あわせようとして広まっている





なんて醜い連鎖なんだ・・・!!








乾先輩は乾先輩で先輩から乾汁を作ってくれ、と頼まれてかなり喜んでいた

自分の作った汁が皆に飲まれるのが大変嬉しいようだ

その間にも着々と乾汁レジスタンスの数は増えていく

その中には乾汁のリピート客も増えているようだ


・・・リピート客が乾汁を求めて購入するのも武蔵の計算の内なのだろうか

きっと、そうなのだろう

アイツが利益にならないようなことをするはずがないからな。さすがギャンブラーと言われているだけはある




乾汁が広まり始めてから三日経った日に先輩が武蔵と廊下で喋っていた



「ギャンブラー君!聞いてよ!レジスタンスの勢力を持ってしても乾汁は止められなかったよ!!!」



確かにレジスタンス程度で乾先輩を止められるとは思わないけどな

・・・しかし・・・・・・後輩に泣きつく先輩ってのはどうだろうと思う

武蔵は先輩をなだめるかのように笑って先輩の肩を叩いた


「大丈夫です。先輩。最終手段はまだ残っています」

「最終手段・・・?」

「はい!残された手は・・・実力行使しかないでしょう!!




いいのか!?最終的にそんなやり方でっ!!?




「何か、乾先輩相手に勝てそうな勝負をして駆け引きをするんです!」

「駆け引き・・・・・・」


乾先輩に勝てそうな勝負を考えているのか顎に手を当てて悩み出す先輩

勝てそうな勝負を考えてる辺り、・・・せこいな・・・・・・


「ありがとう!ギャンブラー君!今日あたりにでもヌイヌイに決闘を申し込んでくるよ」


先輩は武蔵に手を振りながら自分の教室へと帰っていった

一体、あの人は何で勝負するつもりなのだろうか・・・






それは放課後になったらわかった



俺はいつも通りに部活へ行くとなぜかコートに乾先輩と先輩が立っていた

しかも先輩はジャージを着て、ラケットまで持っている

何をするつもりなんだ・・・?



「ヌイヌイ、この条件を飲んでくれるね?」


ビシッっとラケットを乾先輩に突きつける先輩

あの乾先輩が何故か動揺している


「条件…ね。いいだろう。俺が万が一負けたら乾汁の製造は諦める

 だが、俺が勝った場合は乾汁の費用は生徒会で負担する…

 フ…こんな美味しい条件、飲まないはずがないだろう」


乾先輩お得意の逆行めがねをしながら不敵に笑みを返してくる

この会話を聞いて、この状況を見る限り、乾先輩と先輩はテニスで勝負して駆け引きするようだ

なんというか…先輩には不利だろう

相手はあの乾先輩なのだから


――!!俺はそんなこと聞いてもないし、認めてもいないぞっ!!?」


手塚部長が先輩に叫んでいる

手塚部長には内緒で決めていたらしい先輩


「だぁ〜いじょうぶv 絶対に負けないからさ!」


先輩は自信に満ちた声で答えると、乾先輩と向き直り、試合を始めた

乾先輩の圧勝だろう、と思っていたら

以外にも先輩は粘り、ラリーの応酬をしていた

乾先輩は苦戦をしていた

まぁ、元がデータテニスなだけに、先輩のデータが不十分なせいもあったのだろう

けど、ここまで押されているとなると、先輩の実力を認めるしかない



スパンッ―・・・



先輩がドロップボレーを仕掛けた

乾先輩はボールを取ろうと走る


「残念!ボール2個分届かない♪」


いつか乾先輩が言ったセリフを先輩が言った

先輩の言うとおり、乾先輩はボールには手が届かなかった

その後もラリーの応酬は続いた

乾先輩は幾度も際どいコースを狙って打っていたが、先輩は持ち前の身軽さでいとも簡単に打ち返す

まるで菊丸先輩二号みたいだ



「好調、絶頂、絶好調〜〜〜〜フ〜〜ゥ★」



しかも何か試合が進むにつれて先輩がhighになってきている!!



ノリがなんだかスーパーゲイみたいなのは何故だ!?




そんな先輩に翻弄されている乾先輩


「そろそろ、決めさせてもらうよ」


いつの間にか試合も終盤に差し掛かっていたようだ

先輩はそう言うとラケットを振った

そのボールは勢いよく空中に飛び、いきなり乾先輩の真上に垂直に急降下してきた

乾先輩はその技をなんとか避けたが、ボールは打ち返せなかった



「ゲ・・・ゲームウォンバイ・・・・・・先輩の勝ち・・・です・・・・・・」


審判をしていた桃城のやつが試合の勝者を告げた

乾先輩は信じられない、という目をして(といってもその目は瓶底めがねで見えないが・・・)いる

そんな乾先輩に先輩は笑顔で手を差し伸べた


「いい試合だったね!ヌイヌイ!」

「・・・あ、あぁ。いいデータが取れた。ありがとう」


握手をする二人

握手を交わした途端に周りから大歓声が起こる






「やったぁ――!これで乾汁飲まなくて済むぞぉ――!!」






そうだ!!これで、もう乾汁の陰に怯えなくてもいいんだ!!

それは実に喜ばしいことだ


「それじゃあ、ヌイヌイ。約束は守ってねv」

「あぁ。約束は約束だ。乾汁はもう作らない」


・・・何か、乾先輩の言葉に含みがあるのは気のせいだろうか・・・?

気のせいにしておこう

それにしても、先輩があんなにテニスが上手いなんて・・・



「すごいじゃないか!テニス出来るなんて、なんで今まで言わなかったんだよ」

「大石先輩の言うとおりっスよ先輩!水臭いじゃないっスか!次は俺と試合してくださいよ!」

「桃先輩!先輩とやるのは俺っスよ!」

、今度僕と一緒にテニスやろ♪」

「不二〜抜け駆けずるいにゃ〜!!っ!試合するなら俺と俺と!」



ワラワラと先輩に群がっていく

先輩は対応をしきれなくなったのか、苦笑いを浮かべながら群れから脱出し

脱兎のごとく去って行った


「それじゃあ、さいなら〜〜〜」


このときの先輩に効果音をつけるならピュ〜だろうか、と思いながら先ほどの試合を思い返していた

いつか、俺も試合をしてもらおう

と、心に誓った俺だった…










次の日の部活の時間・・・

マラソンをしていると俺達レギュラー陣より遅く走っていた者達が次々と倒れだした

その原因は乾先輩が新たに開発したドリンク

その名も


『ペナル茶』





・・・ついにダジャレを持ち出してきたかっ・・・!!!


って、ツッコミどころはそこではなくて・・・




「冗談っしょ!?この前、先輩と約束交わしたじゃないっスか!!?」


これには俺もバカ城に同意見だ

乾先輩はいつものようにメガネを逆行させながら言う

あの人、もうメガネを逆行させるの、特技になってるよな・・・


「フッ・・・乾汁は作ってはいないから、違反はしていないよ」


なんっつー人だっ!!!

だからって乾汁よりパワーアップするものを作るなんてっ!!!




また、前のように乾印の汁物に怯える日々がくるのだろう・・・

なんだか、先輩のせいで事態が悪化したような気がする・・・










*** おまけ ***


「あっれ〜ギャンブラー君、こんなとこで何してんの〜?」

第二調理室にはギャンブラーがいた。

そして・・・テーブルには色とりどりの野菜の数々。

「あ、先輩。あの野菜汁のリピート客ように野菜汁を作っているんです」

「リピート客・・・」

「リピート客がいるおかげで、今後の行事などの資金集めなどは心配いりませんよ」


「くわぁっ!!!!」


ギャンブラーとが話している時にグラウンド方面からすごい声が聞こえてきた。

声がした方に窓から顔を覗いて見てみれば

そこにはなんだか赤い液体を持った乾の姿と、地面に転がっているテニス部員の面々。


「うわぁ・・・もしかして、ボクのせいで乾汁よりもヤバイものをこの世に生み出してしまったのかなぁ・・・」

「まぁ、最初からそういう気がしてましたけどね」

「!!??!」


はまじまじとギャンブラーの顔を見つめた。

まさか・・・すべて、こうなることを見越して、汁のリピート客を獲得するために

今まであんなことをしたんではないのだろうか・・・

もしかして、ボクは彼に利用されたんじゃ・・・?

と、ついつい思ってしまうであった。


今回の事件の大まかな勝利者といえば彼、ギャンブラー唯一人であろう。









+++あとがき+++

一日一本、終了です。

今回の話はweb拍手で生徒会メンバーが気になります〜と言った内容を貰ったので

生徒会メンバーのことを詳しく(?)書いてみることにしました。

いや〜ギャンブラー君、知将ですな。策士ですな。

個人的にギャンブラーと殿は好きですね〜