絶対運命






「うん。大分、免疫がついたみたいだね。この分だと5時間は外に出歩いても平気かな」




三ヶ月に一回の精密検査をするために伴野総合病院に来ている

検査の書類を見ながら、大石章高先生が答えてくれた

大石先生は皮膚科とかそういう専門の医者ではないが

子供受けするせいか、幼少の頃からお世話になっている先生は今では、の専属の医者になっている



「本当ですか、大石先生!」

「あぁ。良好だよ。でもやっぱり普通の人の紫外線の免疫力には大分劣るから日焼け止めは欠かせないけどね」



サカサカと診察書にサインをしてから、いつもの薬をに手渡した

薬と言ってもビタミン剤だが



君もいつも大変だね、君の付き添い」

「えぇ。大変っていう言葉じゃ足りないくらいに大変ですよ」

「それじゃあ、ボクがさんに迷惑かけてるみたいじゃないか」

「お前、自覚なかったのか?今日だって三ヶ月に一度の診察の日だって忘れてたじゃねぇか」

「うっ・・・・」

「まあまあ。・・・相変わらず仲良いね君達は。そういえば君が君の付き添いとして来るようになったのって何時だっけ」



何となく、思ったことを訊ねる先生

それにがしばし、宙に視線を向けて答えた



「6年ぐらい前ですね」

「そうか。それじゃあ、私も歳を取るわけだな」

「歳を取っても大石先生は素敵ですよ★」

「はは。参ったなぁ〜」



軽い話を済ませてから病院を出た

すると、急にが大声をあげたかと思うと、病院の目の前で蝶を追いかけている猫へと視線を向けた



「カルピンッ!!?」

「知り合いか?」

「うん。知り合いも知り合い。リョンリョンの家の猫だよ」



そう言うと、はカルピンという猫に向かって走っていった

その姿を見ながら、俺は先ほどの会話を思い出していた


―…そうか、もう6年経つのか・・・・・・


そして過去の出来事に思いを馳せた









***





6年前、当時の俺は小学3年生だったな

そのときは夏休みで、宿題とかは早めに終わらせて毎日のように遊びに出かけていた

河川敷で会った子供とサッカーしたり、公園で会った子供とテニスしたり・・・

ちなみに、その子供とは今でも交友があったりする

そういえば、アイツの名字知らないな・・・

今度、名字を聞きに連絡とってみるか、裕太に


・・・と、話がずれたな

で、その日も遊びに行ったんだけど、お盆だからか、公園に行っても人がいなかった

丁度、おやつ時だったから、俺は近くの駄菓子屋さんにでも行って

何か買って食おうと思い、駄菓子屋へと続く道を歩いていた


その時だ



電信柱の影に蹲るようにしてしゃがりこんでいる物体を見つけてしまったのは



当時の俺も幽霊とかそういう非科学的なものは信じなかったけれど

今はなんていったってお盆

それに輪を駆けるように、最近異様に白い子供を見かけるという噂をこの近辺で聞いていた俺は

半信半疑ながらも、ソイツを幽霊だと思った

憑いて来られたりしたら嫌だから、俺は早々にその場所から離れることを選択した


だが、運命とは残酷な物で、俺の服を何かが掴んだ


何っていうのは、言わずもがな、電柱にいた奴で・・・

俺は恐る恐る、後ろを振り向いてみると、そこには



つばの広い帽子を被った、夏だと言うのに長袖を着ていて、顔や髪なんかは色が抜けたように真っ白の、俺よりも小さいガキだった



こんなに不審な点がたくさんあって、尚且つ噂どおりの白い子供・・・

そこで俺は結論に達した

お化けだ、と・・・


そのお化けは俺を見上げると突然、ニコッと笑みを送ってきた






「君、隣の家の子だよね?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」





思ってもみなかった質問に俺は声を上げた

そして、混乱した

コイツは何を言っているんだ???





「いっつも、見てたよ」







・・・・・ストーカーですか!?






と、子供ながらに思った



「でさ、お願いがあるんだけど・・・」

「幽霊ストーカーのお願いは聞けません」



何故か敬語で、お願いを聞く前に断った

すると、お化けは苦笑して話を続けた



「まだ何も言ってないよ。時間が、ないんだ」

「そうか、成仏するのか」

「だから、お願いがあるんだ」

「成仏するんだったら、手伝ってやってもいいぞ」



今、思うと相当話が噛みあっていなのが分かるな



「ありがとう。じゃあ、ボクを伴野総合病院まで連れてってくれないかな」



ニコリと最後に笑うと、お化けは俺の腕の中に倒れた

倒れこんだことで、人間としての暖かさが伝わって、直感的にコイツはお化けじゃないとわかった

お化けじゃないと分かってから、お化けを改めて観察してみると

服から覗いている手が赤くなって、火傷みたいになっていた

そして、ある違和感に気づいた

こんな真夏に長袖の服を着て、汗の一つも掻かないでいるということに

前に『宇宙丸見え!』という番組でこういう症状を見たことがある

確か、熱中症とか言って、汗を掻かなくなったら危険だとか言っていたな

俺は慌ててお化けを背中に背負って指定された病院へと急いだ


病院についてから、お化けは緊急治療室へと運ばれていった

そして、無事に治療が済んでから、お化けと再会した



「ありがとう。助けてくれて」


お化けは礼を言うと、自分の名を名乗った



「ボク、君の隣の家に住んでるっていうんだ」



この時、初めて俺は家に菜々姉以外の子供がいることを知ったのだった




んでもって、が俺より一つ年上だということを知って


有り得ない




と思った


下手したら、よく出来た年長さんだぞアレ






***







・・・・・・・・・・・


こうして思い返してみると、との出会いってあらゆる意味で衝撃的だったんだな……


今更ながらにそんなことを思う俺

そして、この時を境に俺の人生はに振り回されっぱなしなんだよな・・・




「あれ、じゃないか」

「あっ!ランランにクニクニ!」



俺が過去へとトリップしている間に猫と戯れていたの側に大石先輩と手塚先輩が居た



「どうしたのーこんなところに?もしかして、怪我でもした???」

「ほら、明日は都大会だろ?そのための検査だよ」

「大石…!」

「そっか…テニス肘、まだ治ってなかったんだよね……」



気まずい雰囲気が流れる

手塚先輩がこの雰囲気から逃れるためか、話題を変えた



「……はどうして病院に?」

「ボクはいつものビタミン剤が切れたからそれを貰いに来てただけだもーん」

「そうか」

「うん。じゃあ、明日頑張ってね!」



そう言って、手を振って別れた

手塚先輩達がこっちへ…病院の玄関方面へ向かって来るのを見計らって俺も歩き出した

手塚先輩達とすれ違うようにしての元へと近寄る

すれ違った時、大石先輩が俺のことを見ていた気がするが・・・

きっと、この髪の色に驚いているのだろう。あの人、真面目そうだし

今日の髪染めは赤だからな。カラコンは金

こんな色彩を持った奴が病院から出てくるんだ。驚くのは当たり前か



「あれ、あの猫は?」

「え?・・・・・・・あー!いない!!」



さっきまで居たカルピンという猫がいなくなっていた

・・・かなり、going my way な猫だな・・・・・・



「ま、カルピンだし、大丈夫か」



その自信は何処から来るんだ

でも、あの猫、結構世渡り上手そうだから、大丈夫っていう気がしなくもない

家路につくためにしばらく歩いていたら、が自動販売機の前で止まった

自動販売機を見つめてるの瞳は心なしかキラキラと輝いているように見えた



「どうした?」

「ねぇねぇ、さん!新しい味のポンタがある!キウイ味だって!!」

「・・・買うのか・・・・・・・・・」

「当たりまえじゃん!」



言うが早いか、は小銭をチャリチャリと自動販売機の中へと入れ始めた

そして、ボタンを押す



ピッ・・・


ガタンッ



出てきたポンタを嬉しそうに手に取り、飲み口を開けた

一口、二口と口に含むと、ポンタを俺に差し出した

それを見て、俺は眉を顰める



さん・・・・・・・・・・飲んでv」

「・・・あのなぁ、明らかに美味そうじゃないものを興味本位で買って、不味かったら俺に回すのヤメロよな!」

「だって、もったいないじゃん」

「もったいないっていう言葉はそっくりそのままお前に返す」



飲めそうにないものを買う方がもったいない

金の無駄遣いだ



「でも、もう、買っちゃったし」

「・・・・・・・・・・・・・・・俺はお前の処理機じゃねぇんだぞ・・・」

「しょうがないよ。これも運命だと思って、ささ、どうぞお飲みくだせぇ」

「そんな運命ならいらん」



渋々ながら、が少ししか飲んでいないポンタを荒々しく受け取った



「ふふふふふ・・・さん。これは絶対運命ってやつっスよ」

「絶対運命・・・・・・」




なんか、言葉的にはロマンチックだが、俺にとっては全然

0.0000000000000……0001グラムもそんなものは含まれないし、感じもしない。つか、感じたくない



絶対運命・・・

どうしても逃れられない運命・・・・・・・か・・・



はあ・・・

運命とは残酷だ



もう一度、溜息をつき、ポンタに口をつけて一口飲んだ

・・・シロップみたいな味がした


これを全部飲まないといけないのか・・・・・・








本当、運命とは残酷だ・・・










+++あとがき+++

やっと書けました、君とさんの出会い編。

前々から書きたかったものです。

ですが、今まで書けませんでした・・・

それを何故、今書いているのか。

ふふふ・・・理由は簡単です。

入社試験や何やらでストレスが溜まって作品を書きたくなったからです!!