荒唐無稽






「健闘を祈る!」





目の前に俺、越前リョーマの姿をした先輩が敬礼つきで言った

身体は俺のだけど心は先輩

逆に言うと先輩の身体だけど心は俺、といった現象が起こっている

俺は先輩の姿で目の前にいる俺、もとい、先輩に向かって言った



「俺の身体でそういうこと止めてくれる?」





事の始まりは朝だった

朝、先輩が大慌てで俺を起こした

何事かと思い起きてみたら、先輩と俺が入れ替わっていた

夢か。とも思ったけど、どうやらこれは現実らしい

しょうがないのでお互い入れ替わった状態で

今日一日(かどうかはわからないけど)学校生活を送ることにした

学校を休むわけにはいかないし


しかし、よくよく考えてみると、俺は3年の勉強をすることになる

もし、当てられたら答えられない

そのことを先輩に話したら

「ボクが当てられそうなところはノートに書いてあるから大丈夫!
 それより、リョンリョン。くれぐれも変なことしないでね?」

俺がするわけないじゃん

アンタじゃないんだから

こうして、俺達の入れ替わり生活が始まった







一時間目の授業が終わると先輩が俺を呼んでいた

その手には英語の教科書が握られていた

それを見た俺は先輩がいわんとしていることを察知し

俺も英語の教科書を持って先輩のもとへと小走りで駆け寄った



「もーリョンリョンのお間抜けさん!」



と言って、英語の教科書を俺に渡す

それに対して俺も先輩に英語の教科書を渡す

これであるべき学年に戻ったわけだ、この英語の教科書は

・・・次の時間が英語だったからかなり助かったかも



「・・・先輩、そろそろどうして入れ替わったのか
 原因を追究して元にも戻ることを考えないといけないんじゃないっスか?」

「そうだね・・・一体なんでこんなことになったんだろうね」



なんとなく、先輩の顔を窺ってみる

・・・あの顔は何か感づいているな・・・・・・

俺も、こんな風になった原因はなんとなくだがわかる


多分アレだ



牛乳



昨日、先輩と俺が風呂上りに

牛乳の一気飲み・・・もとい、早飲み競争をしたし・・・・・・

あの牛乳は俺と先輩だけしか飲まなかったし

だからあの牛乳が原因と見て間違いないと思う

こんなことできる人といえばあの人しかいないだろう



「クス、。君はもう気づいてるでしょ?何が原因か、だなんて」



そう、この声の持ち主である、不二周助



「もしかし・・・なくても、不二先輩の仕業っスか?」

「うん。そうだよ」



あっさりと肯定する不二先輩



「でも実験が成功してよかったよ
 最初は越前の見事な演技っぷりで失敗したのかと思ったけど」



不二先輩お願いですから傷をえぐるようなこと言わないで下さい



その時の俺の姿を見たかったんだろう先輩の俺を見る瞳がすごく眩しい

正直言ってこの人の演技をするのすっごい疲れた

てゆーか、話がずれたせいで重要なところを見落とすところだった

何で不二先輩が昨日、俺と先輩が牛乳を飲んでたことを知っているんだ?


不二先輩だから。と言われればそれでお終いなんだけどさ・・・



「不二先輩、早くこの状態を何とかしてくださいよ」

「3日経てば元に戻るよ。それ以外はどうにもできないね」


「やったぁ!!!」



先輩が叫び枯れ葉隊みたくヤッタ、ヤッタ、と踊る前に俺は

凄みのある顔で先輩を睨みつけた



「リョンリョン。ボクの顔でそういう顔をするのヤメテくれない?」



と言う、先輩の言葉は流して俺は先ほどの先輩の喜びように突っ込んだ



「先輩、何喜んでるんっスか!真剣にこの状況を何とかしないと・・・!」

「えーなんでー?た〜のすぃーじゃん」

先輩はニヘラ、ニヘラ笑いながら言った

「・・・俺の顔でそういう表情しないでくれます?」

「お互い様だよ」



ピシャリと先輩に言われる



確かに、そうなんだけど・・・

でも、やはり言わずにはいられないっていうのが人間の性なんだ・・・!



「思う存分、使わせてもらうよ。リョンリョン」



先輩は最後にニッ、と笑って

俺の一年の英語の教科書を持って階段を登っていった

隣に視線をやると不二先輩がにっこり笑って言った



「それじゃ、今日から3日間の代わりがんばってね越前」



まるで、一日署長のように言われる俺


・・・・・・・・・この人絶対、楽しんでる・・・!!!





放課後


もう部活の時間だ。・・・しかも、もう始まってるし

俺はいつものような足取りで部室へと行こうとした

すると、どこからともなく誰かの叫び声が響いた



「うわぁ―――!越前!どうしちまったんだ!?」



越前、と聞いて少し反応したけど、俺のことを言っているわけじゃない

今の俺は先輩なのだから

俺は声がした方へなんとなく隠れながら覗いてみた



「どうしたも、こうしたも普通っスよ」



桃先輩と話していたのはまぎれもなく俺だけど

俺の体の中には先輩が入っている

そこで気が付いた

今、俺は先輩なわけだから今日はテニスが出来ない・・・ということに



「え、越前が愛想よくニコニコ笑うなんて・・・有り得ねーな、有り得ねーよ」



あぁ・・・俺のイメージが・・・



「で、先輩。俺と試合してくれるんっスか?」



態度はあくまで俺風だけど、表情がな・・・・

先輩はものすっごい笑顔で桃先輩に語りかけていた

・・・・?

あれ?俺、今、聞き逃してはいけないことを聞き逃したような・・・・・・・



「いや・・・試合は別にいいんだけどよ・・・・・・・」

「じゃあ、やりましょうよ」



コートに入っていく二人

多分、今はレギュラー同士での練習試合をすることになっているのだろう

いいなぁ試合・・・

って!あ!!

また聞き逃しそうになったけど、先輩ってテニスできたの!?


・・・意外だ・・・・・

ま、先輩のテニス、見せてもらおうじゃないか



桃先輩と先輩が打ち合ってから3分が経過した

先輩のテニスの腕は普通に上手い

今は桃先輩の方がリードしている



「どうした、越前!左でやってその程度か!」

「・・・・・・」



先輩は右利きのはずだ。左じゃない

でも、左でもかなり打ちなれてる様子だ

どのくらいテニスをしていたのだろうか・・・

しかも、利き腕じゃないのに桃先輩とあれだけ打てるなんて・・・


先輩がうっすらと不敵な笑みを浮かべた



バシュンッ



瞬間、先輩は技を繰り出した

ボールは高く飛び上がり太陽と重なってボールが見くくなった



「あっ・・・モンモ、じゃなくて桃先輩!頭上注意!!



ボールは垂直に急降下しばじめた

そして・・・

ボールを追って空を見上げていた桃先輩の顔面にめりこんだ

・・・痛そう



「あちゃーだから言ったのに・・・」



その時、先輩と目があった



「リョ・・・!!先輩!!ここで何をしてるんっスか!!?



先輩は血相を変えて俺のほうへと駆け寄ってきた

・・・桃先輩はいいのだろうか・・・・・・?



「先輩。手、見てください」



俺は言われるがまま、手を見た

先輩の白い手が今では真っ赤になっていた

しかも触るとヒリヒリする

10分近く太陽の下で試合を観戦していただけなのに・・・

先輩は俺の手を引いて日陰に連れて行った



「リョンリョン・・・ローション塗ってないでしょ?」

「あ・・・」



忘れてた



「たく・・・こうなるから塗れって言ったのに!
 ほら!軽くだけど焼けどしてる!」



皮膚がヒリヒリするのはそのせいか・・・



「ボクの身体・・・太陽に、っていうか紫外線にメッチャ弱いから
 ローション塗らないとすぐこうなるんだよ」



・・・・・・・この人、今までどんな生活してきたんだろう

先輩の言っていることを聞いてると、太陽の下を歩けないみたいだし

あ、だから夏でも冬の制服着てるのか

頭にいつも被っているのも頭部の皮膚を紫外線から守るため・・・?



「やっぱ、今日中に元に戻してもらおう!」



そう言うと先輩はすくっと立ち上がった



「・・・いいの?



すると、突然不二先輩の声がした



「不二先輩いつの間に!?」

「ちょーどよかった、シュンシュン。元に戻して」



俺の驚きは無視されて不二先輩に話しかける先輩

ていうか、3日たたないと戻れないんじゃあ?



「別にいいけど・・・はそれでいいの?」



別にいいけど・・・って!

それじゃあ、あの話は嘘!?



「うん。ボクはもう十分に楽しめたし。太陽の下でテニスもできたしね」

「僕としてはもうちょっとのプレーを見てみたかったんだけど。
僕もがテニスできるって全然知らなかったしね」

「あはは。だったらボクが元の身体に戻ったら一緒にテニスしよv」



しかし・・・本当にこの人は元の身体に戻りたいのだろうか・・・・・・

だって、俺の身体だったら一生、太陽の下で生活できるのに

多分、先輩がずっと憧れていた世界なのだろうに・・・

自分で言うのもなんだけど

俺の身体を乗っ取ろうという気はないのだろうか



「元に戻る方法だけど・・・二人が元に戻りたいと強く願いながら
 互いに頭突きをすれば元に戻れるよ」



なんで頭突き・・・?



「わかった。リョンリョンは準備いい?」

「本当に先輩はこれでいいんっスか!?
 このままだったら俺の身体だったら太陽の下で生活できるんっスよ!?」

「まぁ、確かにそれは憧れてたけど・・・
 他人の身体を乗っ取ってまでそんなことしたくないよ」



先輩はにへら、と笑ってみせる

・・・俺の顔でそういう表情、よしてください・・・・・・・・・



「それにさ、やっぱボクはボクの身体じゃないと!
 ボクの身体でしか出来ないことはたくさんあるし」



自分が一番っていうことだろうか



「それにほら、ボクの身体じゃないとクニクニで遊べないしー」



先輩はニタリと、あくどい笑みを浮かべた

・・・部長・・・・同情します・・・・・・・



「それなら、別にいいんっスけど」

「それじゃあ、僕がカウントしてあげるよ」

俺と先輩は目線を同じ高さにして身構えた

「3」



不二先輩のカウントが開始された



「2」



緊張のためか額から汗が流れ落ちる



「1」



頭突きをするため、身構える



「0」



その言葉を聞き終わるか聞き終わらないうちに

俺と先輩は互いに身を乗り出し頭突きをした








ガッツン!!!










いった・・・・・・・・・・・

思いっきりやったせいか額がヒリヒリしている

そして、何気なく手を見た

・・・・戻ってる



「あってー・・・」



俺の反対で寝転んでいた先輩が額を抑えながら起き上がった

おでこが赤くなっている

俺のおでこも赤くなってるのかな・・・



「あー元に戻ってる!!」



先輩は元の身体に戻ったこと喜んだ



「シュンシュン。シュンシュンのおかげで貴重な体験をできたよ。ありがと!」



不二先輩にお礼を言い終わると先輩が今度は俺の方に向かって言った



「リョンリョンも。身体を貸してくれてありがと」



そのときの先輩の顔が、とても優しい笑顔だった



「おっと、今日は生徒会の会議だった」

「それで手塚がいないんだね」

「うん。もう行かなきゃ。じゃねー」



先輩は慌しくその場を去った


先輩が去った後、俺は不二先輩に話しかけた



「・・・どうして、こんなことしたんっスか?」



さんざんだったよ・・・



「この前の理科の時間にアルビノの話を聞いてね」

「アルビノって動物とかにたまに生まれてくる色素が薄いのっスか?」

「そう。でもね、動物だけじゃなく人間にも出ることがあるそうなんだ
 そのアルビノ」

「それじゃあ・・・」

「うん。ちょっと気になってさ
 新しい黒魔術の実験のついでに調べてみようかなって思って」



・・・ついでだったのかよ



「越前とのさっきの話だと、やっぱはアルビノっぽいね」



そのときからもう居たんですか・・・



「今さら、がアルビノだからってどうってこともないんだけどね」

「・・・そうっスね」



先輩は先輩だし

アルビノって言っても

ただ色素が普通の人より抜け落ちただけの人なんだから



それに、先輩が変人っていう事実は変わらないんだし






+++あとがき+++

ずっとやりたかったありきたりなネタ、取替えっ子キャンペーン終了です!!。

長かった・・・

主人公、実はアルビノだったのです!

人間でアルビノって本当にいるんですよ。

嘘だ〜って思った人はネットで調べてみるとよろしいかと。

アルビノっていうと赤目を想像しがちだと思うんですが

主人公の場合、目は正常な色を保っているのでリョーマと一緒の色です。

目は色素が抜け落ちる人とそうでない人がいるそうなので。

ていうか、今回シリアス風味?

次回からはまたギャグで突っ走ろうと思いますです。