私は自分の道を勝手に親に決められるのが嫌だった。
親が決めたレールの上で生きていくのはまっぴらゴメンだ。
私は私。
ちゃんと私を見てほしかった。
どうしたら、私の主張を聞いてくれるのだろう。
どうしたら私を見てくれるのだろう。
そうやって、悩んでいた時だった。
あの噂に出会ったのは。
午前4時にK番地に行くと普段は赤いポストのハズなのに黒くなっていて
そのポストに悩みを書いて入れると、悩みが解決する。という噂を耳にしたのだ。
私はモノは試しに、と、朝早く起きてK番地に行ってみた。
確かにそこには黒いポストが立っていた。
私は、そのポストに勢いよく手紙を投げいれ、家へと走って帰った。
誘拐の話
学校へ行って、下駄箱を見てみると
そこには一通の見慣れない手紙が入っていた。
まさか…ラブレター?もしくは不幸の手紙?
なんて思いながら手にとって見てみると、それは招待状らしかった。
とりあえず、その招待状を持って教室へと行き、荷物を下ろした。
そして、招待状に目を通す。
『悩める子羊よ、我が屋敷に案内しよう。さぁ扉をくぐってコチラへ――…』
そこまで読むと、なぜか尿意を覚えた。
私はそのまま招待状を持ったままトイレへと直行していった。
トイレのドアを開ける。
すると、そこはトイレではなく
怪しい雰囲気がたちこめる不思議な部屋だった。
ボー然と立ち尽くしている私に声がかかる。
「ようこそ。占いの館『フォリング』へ」
私に声をかけてきたのは黒に近いこげ茶の少年。
顔立ちがすっごく整っていて、美形だ。
「悩める子羊よ、ボクに悩みを打ち明けてごらん。どんな悩みでも解決してあげるよ」
「あ、あの・・・」
「ん?何?」
「あの・・・トイレはどこでしょうか?」
金髪の10歳くらいの男の子に案内されてようやく用をすませた後
黒に近いこげ茶の髪をした14歳くらいの男の子と向かい合わせになるような感じでテーブルに座った。
さっきの金髪の子もかなり顔立ち整ってたけど・・・この子もすごいわ。カワカッコイイ。美形だわ〜
「で、君の悩みは?」
まるで諭すように言う少年。なんとなく、今までたまっていたものをこの少年に全部話した。
「そうか・・・なら、いいものをあげよう。きっと君の力になれるよ」
「・・・?なに、それ?」
「その前に・・・お金を渡してもらおうか。五千円だ」
ご、五千!?
「今の君の手持ち金なら払えるだろ?」
いや、でも・・・!五千は高すぎよ!五千円払ったらお財布の中身がなくなっちゃうじゃない!
「どうせ、バイトしてるんだから五千円は軽いでしょ」
というか、なんでこの少年は私の財布の中身や、バイトをしているって知ってるのよ!?
あ、いや・・・そういえばさっき占い師って言ってたわね・・・・・・・占い師だからなんでもわかるのかしら・・・
「お金を払ってくれたらこれをあげようと思っていたんだけど」
そう言って少年は丸い石がついたキーホルダーを見せた。
わわ!めっちゃ好みのデザインなんだけど!!これで、五千円なら安い方なのかもしれない・・・・
「わかったわ。それ、頂きます」
私はお財布から五千円を抜いて少年の目の前に五千円札を叩き付けた。
「まいどありー♪」
少年は笑顔で五千円札を受け取るとキーホルダーを私によこした。
「ヴァル、お客様のお帰りだ。案内して」
金髪の少年に話しかける少年。金髪の少年はこくりと頷くと部屋の扉を開いた。
こっちに来い、という合図らしい。この少年は非常に無口だなぁ・・・
私が扉のほうに行くと少年が話しかけてきた。
「今日の夜、2時にB通りに行ってごらん。そこで君の運命は変わるから」
「え?」
その言葉を最後に聞いて金髪の少年に扉を閉められた。
バタン―――
深夜2時、今朝会ったあの少年に言われた時刻だ。
そして、私はバイト帰りにB通りを通っていた。
一体、こんなところで何が起こるのだろうか・・・
そう思った矢先に一台の車が目の前に止まり大人の男が一人出てきて
私は無理やりその車に乗せられてしまった。
誘拐!!?
ど、どうしよう・・・私・・・殺されちゃうの・・・!?
******
「あれ?朱辿・・・この男の人・・・・・・」
ヴァルが朱辿に話しかける。
「うん。そのとおりだよヴァル。この前ここに来た人だ」
水面鏡を見ながら答える朱辿。
「ボクがこの二人を操作しなければ、この二人の運命は変わらなかっただろうね」
「二人とも・・・お互いをお互いに利用しあうっていう寸法・・・?」
朱辿は不敵な笑みをつくり言った。
「そのとおりだよ」
******
私はとあるアパートに連れてこられた。
車に乗せられた時もそうだったけど、この人の態度はなんかおどおどしていて
こういうことに慣れていないようだった・・・
私はとりあえず、警察に電話をしようと思い、携帯電話をポケットから出した。
荷物はB通りに落としてしまったため、今は携帯電話しか持っていない。
「携帯電話はダメだ!預からせてもらう!」
上ずった声で私の携帯を取り上げるおじさん。
そのとき、携帯につけておいた少年からもらったキーホルダーが目に入った。
「あの、そのキーホルダーだけは取らないでください。それ・・・母の形見なんです」
もちろん嘘だ。おじさんは一瞬、私に同情でもしたのだろうか、キーホルダーを私に渡してくれた。
私はキーホルダーを何となくだけど眺めた。
すると、水晶になっているところに文字が現れた。
“あぁ・・・なんていうたいそれたことをしてしまったんだ、私は・・・・・・”
何なのよ、これ・・・
さらに文字は浮かび上がってくる。
“これからどうすればいいんんだ・・・私は・・・こんな可哀想な女の子を誘拐までして・・・”
もしや・・・これは・・・
このおじさんの心の中身が文字として浮かび上がっているの!?
おじさんの心の中身が文字として浮かび上がっているのならば、この人は本当に悪い人ではないみたい。
ここは、一つ説得でもして自首でもさせようかしら。
いや・・・これは使えるわ!
「ねぇ、おじさん。あなたにお願いがあるの」
「な、なんだね・・・!?」
「あなたが、本当はこんな悪いことするような人じゃないっていうのは分かってるけど・・・
私のために、誘拐犯になりきってほしいの」
「・・・・・・ちょっと待っててくれ」
というと、おじさんは台所へ行って水をだした。そして水を止めると、私のほうへやってきてOKを出した。
私達は手始めに身代金を要求することにした。私の家への電話は私の携帯電話でしてもらうことにする。
第一段階は成功した。しかし・・・このおじさんがこんなにも演技が上手いとは、思いもしなかった。
新聞を見てみると、私の記事が載っていた。結構な騒ぎになっているらしい。
身代金受け渡し日になったときにまたも私の家へ電話をする。そして、受け渡し現場へと行った。
この数日で、私とおじさんは結構、仲良くなった。お互いのことも話し合う仲にまでいった。
おじさんは、ある会社の不正事実などいろいろと知ってしまい
どうやったら安全にこのことを世に知らせることが出来るか・・・
と考えた結果、辿りついたのがこの誘拐事件だったらしい。まずは、警察に厄介になり証拠を渡すのだそうだ。
変に、普通に警察なんかに行ったりしたら会社の人に怪しまれ暗殺されかねないからこの行動をとったらしい。
受け渡し現場へと行くと、私達の計画通りにことが進んだ。
つまりは、私は警察に保護され、おじさんは警察にお縄となったのだ。
「心配、したのよっ!身体は大丈夫?変なことされなかった?」
心配げにお母さんが駆け寄ってきて、私に抱きついて、質問責めをされた。
「大丈夫。何もなかったよ」
私は笑顔で質問に答えた。おじさんはパトカーに乗せられるところだった。
「あの・・・!この人、本当は悪い人じゃないんです。
私のわがままを聞いてくれて仕方なくこんなことをしてくれたんです。」
私は少しでもこのおじさんの罪が軽くなるように弁解をした。
「わがまま・・・って・・・?どういうこと?」
お母さんが聞いてくる。
「だって、お母さん、進路のこと勝手に決めちゃうんだもん!私の意見も聞かないでっ!
だから・・・私のことをちゃんと見て、私の意見をちゃんと聞いてくれるようにって思って
このおじさんに誘拐を頼んだの」
警察の人達は顔をしかめた。だって、今回の事件は親子関係の問題で起こった事件だったんだもの。
顔をしかめないほうがおかしいわ。
こうして、私は警察の方に事情聴取をされ、お母さんの方は警察の方がたっぷりとお説教をしていた。
あなたがちゃんとお子さんの意志を聞いてあげなかったからこんなことになったんですよ!って・・・
正直、その光景は見ていて面白かった。
おじさんの方はというと、ちゃんと自社の不正事実とかの証拠を警察に渡せて
警察の方としてはこっちのほうが事件だった。マスコミも大騒ぎだった。
数日たつとその会社の社長さんとかが捕まっていた。
私の日常にも変化があった。お母さんが私を認めてくれたことだ。
お母さんは就職を勧めていたけど、私は大学に行きたくてこつこつとアルバイトをしてためたお金のことを
話したら、「あんたがそこまでして行きたいんだったら・・・」って言ってくれたのだ。
あの噂に出会わなかったらこんなことにはなっていなかっただろう。
私は今でもあの少年から貰ったキーホルダーを大事に持っている。
もう、水晶のところからは文字は浮かんでこないけど。
******
カリカリカリ・・・
室内でペンを走らせる音が響いている。
「あーもう・・・いちいち、報告をするのがめんどくさいよなー」
「あと2件分・・・」
「うーちくしょーなんでこんなに細々と状況説明せにゃならんのだ〜!」
朱辿は頭をがしがしと手でかいた。
「こういった、ドキュメンタリーものは本にするとよく売れるんだって・・・」
「クソ!結局は資金集めかっ!フェイの奴め!」
そう言いつつも手は休めない朱辿。
「しかし・・・今回もハズレかーこういうのアイツ、好きそうなのに」
ハァ、と溜息をつく。
「目的・・・忘れてるかと思ってた・・・」
「一応、覚えてたさ」
そして、しばらくまたペンの音だけが室内に響く。
「あーあと1件かぁータイトルはー“絵描きの話”でいいや」
「朱辿・・・あまり煮詰めるとよくないから散歩でもしてきら・・・?」
「散歩か、いいね。じゃあ行ってこようかな」
紙から顔をあげた朱辿は勢いよく椅子から飛び降り、玄関へと向かった。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい・・・」
誘拐の話 end