Effaced memory 〜消された記憶〜
雨が、降っていた。
そんな中、気が付いたら森の中を無我夢中で走っていた。
胸中に広がるのは恐怖。
どうして、こんなことに…ボクは何もしてないのに―…
目の前に黒いスーツに身を包んだ小柄な男が現れる。
また、広がる恐怖。
捕まったら…殺される―…!
すぐさま方向転換したが、予想していたかのようにもう一人の黒いスーツを着た長身の男が行く手を阻む。
その身を襲うのは、どうしようもない絶望感。
なんで、ボクがこんな目に合わなくちゃいけないの…?まだ、やりたいことがあるのに―…
?やりたいこと…?
それは、何だ?ボクは何をやりたかったんだ…?
思い出せそうで、思い出せない―…
ゆっくりと近付いて来る小柄な男。
さっきまでの恐怖や絶望感はもう、ない。
同時に、意識までも薄らいでいった。
反対に沸きあがってくるのは懐かしい緊張感とそれを楽しむ感情。
最後に見た光景は小柄な男が焦ったような表情で走り出し、拳を突き出すとこだけだった。
後は目の前が暗くなるだけ。
どこまでも暗い。
まだ暗い。
暗い。
暗い。
暗い。
「んっ・・・ん・・・・・・」
目が覚めるて見ると目の前は白い天井だった。
脳はまだ完全に活動してないみたいで、少年は再び目を閉じる。
ふいに、身体が沈んだ。
少年はビックリして目を開ける。
「よぉ、目が覚めたみたいだな」
そこには赤髪の少年がいた。
「!!!!!」
銀髪の少年は思わぬ事態に驚いていた。
それもそのはずである。
赤髪の少年はベッドに横たわる銀髪の少年にのしかかるようにしているのだから。
それに加え、顔も幾分か近い。
口をパクパクしながら何かを言おうとしている少年に気づいた赤髪の少年は
すぐさま、この状態に気づき銀髪の少年から身を離した。
それと同時に少年は身を起こし、ベッドに座る形をとる。
起きた少年を見て、近くにあった椅子を引き寄せ、ベッドの側に置き、座った。
「あー・・・ゴメンゴメン。読みたい雑誌がそこにあったからさ、取ろうとしたらお前が起きたんだ」
気まずいながらも、赤髪の少年はとりあえず弁解した。
言われて、少年は自分が寝ているベッドの壁側を見てみる。
そこの壁はくりぬいてあって、そこには本や雑誌がびっしりと入っていた。
「安心しろ。お前がいくら美人だからって男には興味ないからさ」
ニッと歯を見せて笑う赤髪の少年。
少年の右耳のピアスがチャリ・・・と音を立てた。
赤髪の少年は結局、雑誌は取らなかった。
赤髪少年は「水でも飲むか?」と言って席を立ち、少年にコップをを渡した。
少年は丁度、喉が渇いていたのと、赤髪の少年の善意に甘えることにし、コップを素直に受け取って喉を潤した。
「あ・・・あの・・・・・・アナタは一体…?それに…ここは?…何でボクはこんなところにいるんでしょうか?」
喉を潤した少年は、おずおずと赤髪の少年に尋ねた。
「そうだな、まずはオレの名前だけど…オレは 日影 輪 。
輪でいいぞ。呼び捨てで構わない。
んで、次の質問。ここはニューフェイスタウン。このディナリウス大陸でもっとも優れた技術をもつ街だ。
アジト
その、ニューフェイスタウンの町外れにあるのが今、お前がいるオレの家。
何でここにお前がいるっつーと…ま、成り行き上…だな。てか、お前、覚えてないのか?」
赤髪の少年、輪は最後の質問をはぐらかすように言ったのを少年は訝しげに思ったが
次の輪の言葉に思案することになった。
「覚えていない・・・?」
覚えていない、とはどういうことなのか、と思い少年は記憶を辿ってみた。
何も、思い出せない―…
はっきりした記憶は無く、ただ漠然とした、霧がかかったかのような記憶しか残っていない少年は混乱した。
そんな少年を見るなり、輪は舌打ちをして独り言のように言った。
「クソッ!盗族がいたからまさかとは思ったけど…まさか本当に記憶を盗ることが出来るなんてな!」
「記憶を盗る?ボクは、その…トウゾクさんとやらに記憶を盗られたんですか?」
輪の独り言に素早く反応した少年はすぐさま輪に問いただす。
何か知っているなら、是非とも教えていただきたい。
そんな瞳の少年に少々戸惑った輪が取った行動は
THE☆話逸らしの術。
「そういや、お前の名前まだ聞いてなかったな。名前ぐらい覚えてるだろ?教えろよ」
「名前・・・・・・覚えてないみたい・・・ボクに何があったのかを知っているだけ教えてくれれば思い出すかも知れない」
話逸らしの術は見事に打ち破られてしまった。
少年の熱い視線に輪は溜息を一つつくと少年に視線を合わせた。
「たぶん、この話をすると、もう普通の生活には戻れなくなるぞ。それでもいいのか?」
せっかく記憶をなくして危険が回避されたのに、このことを話して余計なことを知ったらまた危険にさらされるかもしれない。
人を不幸に突き落とすような趣味は輪は持ち合わせていない。
そんな意味を込めて少年に確認をとった。
「いいよ。何も知らないよりは断然いい。アリストテレスも“人は生まれながらにして知ることを欲す”と言ってたし」
何で自分の名前も思い出せないような奴がアリス何とかと言う哲学者のことを知っているのだろうと
文学にめっぽう弱い輪は不思議に思った。
もしも文学に強い興味が輪にあったのならアリストテレスという名に疑問を持ったであろう。
何せ、そんな名前の哲学者はこの世界にはいないのだから・・・
「うーん・・・そうだな。どこから話したもんかな・・・・・・」
少年の意を聞いて輪はどこから話そうかと考えた。
「お前、光闇社って知ってるか?」
「や・・・知らないけど・・・・・・」
輪はその返答を予想していたのか気にもせずに話を続けた。
「光闇社ってのはずっと前からある大会社で、今では経済を左右するほどの企業になっている。
経済を左右するほどの力を持っている光闇社は実質、政権を握ってる。
いわば裏の政府だ。
その光闇社がそこまで巨大になったわけが黒蝶っていう組織の存在だ」
「黒蝶・・・?」
「黒蝶ってのは光闇社の特殊部隊で、光闇社の命で裏で色々と暗躍してたらしい。
その黒蝶のおかげで今の状態まで持ってきたってわけだ」
「それとボクと何の関係が・・・?」
「さぁ。それは俺もわかんねぇ。
ただ、分かっているのは光闇社が何を思ってか、黒蝶を派遣し、お前の記憶を消して連れ去ろうとしたことだけだ。
これはあくまで俺の勝手な予想だけど
お前は光闇社の真実を知ってしまってその真実を他の人に知られることを恐れた光闇社が
黒蝶を派遣してお前の記憶を消し、何らかの事情でお前を連れ去ろうとしたんじゃないかな。まぁ、あくまで予想だけど」
「真実って、何・・・?」
「それが分かれば苦労しないって」
輪の話を聞いて少年はなんだか只ならぬ事に自分は巻き込まれていることを知った。
自分は記憶を奪われる程の重大な秘密を知ってしまったのだろうか―・・・?
ならば、その重大な秘密、真実とは一体なんのことなのだ―・・・?
自分は一体、何を知ってしまったのだろうか―・・・?
少年の中で様々な疑問が浮かび上がってくる。
そして、ふと、あることに気が付いた。
「どうして、そんなことを君は知ってるの・・・?」
その問いに輪は一瞬、考えを巡らせたが少年の問いに答えることにした。
「俺はこの世界に疑問を抱いちまった。この世界は、どこかおかしい。何かを隠している。
さっきお前も言ったよな?アリス何とかって奴が言ったセリフ。
それと同じように、俺は知りたいんだ。世界が何をしようとしているのか、何を隠しているのか。
だから俺は調べてるのさ。世界の真実に近づけるように。世界の真実を知るために」
これを聞いて少年は何だか合点がいった。
経済を揺るがす裏の政府となった光闇社。
政府を裏で操っているその会社を妖しいと思わない者はいないだろう。
輪はその光闇社に目星をつけて光闇社について色々と調べたに違いない。
そして、出てきたのが黒蝶という組織が裏で暗躍していることについて。
光闇社が何を企んでいるのかを知るために輪は黒蝶の動向を探っていき
やがては、輪の言う世界の真実とやらに近づこうとしたのだろう。
「で、一番妖しい光闇社のことを調べていく行くうちにビッグな情報を手に入れた。
エンゲツの森に捜し人を黒蝶が迎えに行くという情報をな」
「その、捜し人っていうのが・・・ボク・・・?」
「ああ。まず、間違いないだろうな。
光闇社について何らかのことを知っているであろう黒蝶の捜し人とやらを
俺達が黒蝶より先に拉致ってやろうとエンゲツの森に急いだんだが・・・
辿り着いた時には黒蝶の奴らがお前の記憶を奪って倒れたお前を連れ去ろうとしているところだったから」
「じゃあ輪がその黒蝶っていう人達からボクを助けてここまで連れてきたんだね」
「そゆこと。どうだ?現状が理解できたか?」
少年はコクリと頷くと顎に手を当てて何かを考え始めた。
輪の話を聞いていて、どうにも腑に落ちないことがあるのだ。
一度も外界の人とは面識がないのに、何故、狙われなきゃならないのか・・・?
そう、一度も面識がないのに、だ。
あれ?なんでこんなことを思ったんだろう―・・・?
少年は自分が思ったことに自分で困惑した。
霞がかかった記憶が少し、晴れてきたような気がした。
更に思考を深める。
―・・・ 黒蝶? 倒れてた? 真実?
記憶が段々と鮮明になっていく。
鮮明になっていく記憶のなかで垣間見た黒いスーツ。
―・・・ 黒 ・・・・・・・・・ ?
そこまで来ると昨日の出来事が一気にフラッシュバックした。
朝、笑顔で街に降りていった女性。
女性の帰りを待っている少年のところに黒いスーツ姿の男二人が小屋にやってくる。
「紅月 楓 だな。すまないが、処分させてもらう。聖夜」
「あいよ。消せばいいんだろ亜澄麻」
そこからは先ほど見た悪夢と同じ光景だった。
降りしきる雨。暗い森の中をひたすらに走る音。
胸中をしめるのは死という恐怖。
「月桂っていうから、どんなにメンドクサイ仕事かと思えば、案外楽な仕事で助かったぜ♪」
「真実を知ってしまった己を呪うんだな。聖夜、終わらせろ」
「命令されなくても分かってるっつーの!!」
近づいてくる小柄な男を見ながら
恐怖と、そして・・・どこか懐かしい緊張感とそれを楽しむ感情。
そのようなことを一気に思い出した少年。
「思い・・・出した・・・・・・」
ポツリ、と少年が声を漏らした。その声に反応する輪。
「何!?本当かっ!?」
身を乗り出して聞いてくる輪に思わず仰け反る少年。
「う、うん。あ、でも思い出してもこれといってボクが狙われる理由がわからないや・・・
いきなり黒蝶がやってきたかと思うとボクの名前を言ってきて、月桂がどうのとか真実がどうのとか言ってきたけど・・・
って、あれ?何でアノ人ボクの名前を知ってたんだろう?
ボク、あの小屋から生まれてこのかた、出たことないのに・・・・・・て、あれ?
だったら、なんでボクはあの人達に狙われないといけないんだ?
あの小屋から出たことないんだから真実なんて知るわけ無いのに」
自分で言っていて、その矛盾性に混乱する少年。
そう。あの小屋にいる間、少年はあの女性・・・母と一緒に暮らしていたはずだ。
母以外の人とは会ったことがなかった。
外界の人間との接触、ましてやエンゲツの森から出たことがないはずなのに
彼らは自分の名前を知っていたし、真実がどうのこうの言っていた。
さっぱり、訳が分からない。
「おい、お前。それってまだ完璧に記憶が戻ってないんじゃないのか?」
「え、そうなの?」
考えあぐねている少年に輪がある一つの可能性を持ち出した。
てっきり、記憶が全部戻ったのだと思い込んでいたらしい少年はなんとも間抜けな返答を返した。
そんな少年のとぼけた反応に思わず椅子からずり落ちそうになる輪。
「そっか・・・まだ戻ってないのか・・・・・・」
記憶がまだ完璧に戻っていないのなら、この矛盾めいた話にも納得できてしまう少年だった。
少なくともこの少年は光闇社になんらかの関係があると見た輪は
少年の記憶が完全に戻れば真実が少しは分かるかも知れない、そう思った。
それに何より、輪はせっかく掴んだ手がかりを手放したくはなかった。
だが、この少年をこのまま自分の利益のために巻き込んでしまっていいものかとも迷った。
幸い、黒蝶の奴らも少年が記憶を一部だけとはいえ戻ったことを知らないし
少年を攫おうとしていた奴らを追い払ったのは輪の相方がやったから奴らは少年が野犬に襲われて死亡したと思っているだろう。
そんな事を考えながら少年に視線を向けてると、少年と目が合った。
ぶしつけに視線を向けていたので何か問われるかと少し身構えていた輪だったが
少年は輪の予想を裏切るように華が咲くように笑った。
「ボクの名前、まだ言ってなかったね。ボクは 紅月 楓 。よろしくね、輪」
輪の視線の意味をどう解釈したのかは分からないが、銀髪の少年、楓は輪に改めて自己紹介をした。
+++アトガキ+++
書き直しいたしました〜〜
いや〜やっとちゃんとした設定が出来たので
今の書き方だと分かりづらくなりそうでしたので書き換えました。
あ、でも根本的にはそんなに変わってない・・・(?)と思います。ハイ。
それに何より、今のままで進むと楓君の存在が危うくなりそうだったので・・・
多分、今の方が存在感あると思います彼。
あれ?そう思ってるの私だけですかね?
ちょっといいお話目指してギャグ70%シリアス30%でがんばりたいと思います!!
(もしかしたら、シリアス70%、ギャグ30%の逆になりそうかも・・・)