Betrayal 〜 裏切り 〜
輪に自己紹介が済んだ楓は時計をチラリと見、慌ててベッドから起きだした。
「輪、悪いんだけどボクもう家に帰ってもいいかな?
輪が求めてるモノはボクには無いわけだし・・・
失われた記憶は確かに気になるけど、それが戻ったらきっと普通には生活できないだろうから
ボクは別にこのままでいい。
黒蝶っていう組織のことも知らないフリしてれば別に問題ないでしょ?」
楓の言葉に
やっぱりな、普通は失った記憶に指突っ込んで危険なことに巻き込まれるよりは普通の生活を選ぶよな―・・・
と、思いつつ輪は楓に頷いた。
「ああ。どうせ、奴らはお前が死んだものと思ってくれてるはずだ。それで問題ない。
後は目立たないように生活するだけだな。また、黒蝶達に発見されて面倒なことになりかねない。
それと・・・俺はあんましあの家に帰ることは勧められないな」
輪は黒蝶がもしかししたら楓が生きてることを想定して家に待ち伏せしているかもしれないという
ニュアンスを含めて楓に言った。
楓は輪が言わんとしてることを理解しながらも輪に告げた。
「・・・・・・でも、でも帰らなきゃ。きっとお母さんが家に居ないボクを心配してるだろうから」
楓は強い眼差しで輪を見、玄関へと向かった。
『その母とやらは、まだ帰っていなかったぞ』
玄関へと向かった楓の目の前を何かが通過した。
続いて紫色をしたモノも横切った。
侵入先はどうやら窓からのようだ。
窓からの侵入者を見てみると、青みがかかった紫の毛色を持つ動物だった。
「犬?」
その姿を認めた楓は思わず心に思ったことを口にしてしまう。
『私は狼だ』
楓のセリフに紫の毛色を持つ狼はプライドを傷つけられたのか
少々、怒った声音で楓の犬発言を否定した。
楓は楓で、動物が喋ったことに驚きを隠せないようで、大きな瞳をさらに大きくしている。
相反的な二人を見て笑いをこらえてる輪を紫の狼はその鋭い眼差しを輪に向けた。
擬音をつけるならギロリ、だろう。
「・・・早かったな。ショロトル。で、様子はどうだった?」
輪は紫の狼―ショロトルの形相に咳払いを一つすると、ショロトルに訊ねた。
『黒蝶はもう去ったみたいだ。多分、死亡したものと見て退散したのだろう。あの家はとりあえず安全だ』
輪に楓を襲った黒蝶の行方について調べていたショロトルが報告した。
報告し終わると、ショロトルは楓の方に顔を向けた。
『私はワウルス族のショロトルだ。見ての通り、私は喋れる、天然記念動物だ』
ショロトルが自己紹介をしたので、楓も慌てて自己紹介をする。
「あ、 紅月 楓 です」
律儀にも動物にペコリと頭を下げる楓。
「おいおい、楓。犬ごときに頭さげるなって」
『・・・お前はその犬ごときに噛まれたいらしいな』
輪とショロトルの壮絶なスキンシップ ― あくまで楓はそう思っている ― を見ながら
ショロトルが窓から入ってきたときに言っていたセリフを思い出し
そのことについて話をもっと聞きたい楓はオロオロしながらも声をかけた。
「あの・・・ショロトルさん。さっき言ってたことは本当ですか?その、お母さんが戻ってきてないって・・・」
楓は視線を彷徨わせながらショロトルに聞く。
その言葉に一人と一匹はピタリと動きを止めた。
「もしかして、お母さん黒蝶の奴らに・・・!」
自分と関わったせいで黒蝶に殺されてしまったのではないかと思った楓は言葉尻を濁して問うた。
『大丈夫だ。それはない』
楓を安心させるようにショロトルは優しい声で言った。
「何で断言できんだよ?」
『さっき、窓から入る前に投げ入れたものがそこら辺に転がっているだろう?それを読めばわかる」
そこら辺―・・・
楓は辺りを見回して、それらしき物を拾う。それは細長い瓶でその中には一枚の紙が丸められて入っていた。
楓は瓶の蓋を開けて紙を取り出す。紙は少々、湿っていた。
『その紙を丸めて瓶に入れるの、苦労したんだぞ』
少し自慢げに言うショロトル。
あの前足で紙を丸め瓶に入れた光景を想像してみる楓。
きっと、ものすごく苦労したのだろう―・・・と思いながら楓は、紙に書かれている内容を声に出して読んでみた。
「捜査協力、及び保護協力にありがたく感謝する。
我々、黒い蝶に貴殿の協力姿勢に免じて10億エクスを投与することとする。
by黒い蝶・・・・・・・・・・これって・・・!!」
用紙に一通り目を通した楓は驚きに叫んだ。
『契約書だ。楓の存在確認と身なりを黒蝶に申し出るかわりに大金を得るという・・・な』
「それじゃあ、まるでっ!!」
『まるで、自分の子供を奴らに売ったみたいだ・・・か・・・・・・?』
輪の言葉をショロトルが引き継ぐ。
それを聞いて、輪は何だかいたたまれない雰囲気になり、視線を下へとおろし
非情なこの行為に拳を固く握り締めた。
楓はショロトルの言葉を聞きたくはなかった。
誰かに言われてしまえば、それが現実だとつきたてられるような気がしたからだ。
楓は動揺し、事実を曲げようとするかのように声を荒げた。
「で、でも!黒蝶と接点があったようには見えなかったよ!!?」
『・・・?記憶は盗られていないのか?』
「盗られていたけど、ついさっき、盗られた記憶を思い出したんだ」
『そうか』
楓が自己紹介をした時に聞こうと思っていたのをすっかり忘れていたショロトルは
肝心な楓の記憶について輪に聞き出した。
『2年前からよく
“黒い蝶が現れた時、蝶が欲しがるモノを与えると富が還ってくる。
逆に与えられなかったら蝶が怒り、記憶を奪ってしまう”
という都市伝説を聞くようになった』
「2年前から・・・?」
「多分、奴らは2年前からお前を探してたんだろうな。
それで、そのうちこんな都市伝説が生まれた、と」
2年前・・・
その年数に見に覚えがあった。
楓が思い出した記憶は2年間の印象に残った出来事だけで、それ以前のことは思い出せなかった。
目が覚めると、母が優しい笑顔で自分を迎えてくれたのを今でも思い出せた。
楓が「なぜここに自分がいるのか、自分は誰なのか」と聞くと
母は悲しそうな顔になり「そう・・・あなた、記憶を無くしているのね。私のこともわからないなんて・・・」と言ったのだ。
思えばそれが、記憶をなくした自分と母との最初の出会いだったのだろう。
それから今日まで母と過ごして2年となる。
2年・・・
また、黒蝶との接点が垣間見えた気がした。
『その母とやらはこの都市伝説を人づてに西地区で聞き、黒蝶と会ったのだろう。
あそこは、エンゲツの森から一番近い地区だから、まず間違いないな』
ショロトルの話を頭の片隅で聞きながら、楓はもう一度、契約書を見つめ直した。
そして、唇を噛み締めると勢いよく玄関から飛び出した。
楓は家に戻り確認したかったのだ。
あの、契約書が間違いであるのなら、楓を見捨て、黒蝶に楓を売ってなかったのなら
母はあそこ、あの家に帰ってきていて楓を迎えてくれるハズなのだ―…
「おい!楓、どこ行くんだよっ!!」
背後で輪が何か叫んでいるが、楓は気にもせずに走り続けた。
太陽の位置を確認し西を目指す。
30分くらい走ると西地区と書かれた看板が見えた。
さらに走る。
走り続けると街から外れ、森が見えてくる。エンゲツの森だ。
森の中を走る。
昨夜、雨が降っていたせいか、地面が少々ぬかるんでいた。
森の中に入って50分。
開けた場所にポツンと佇んでいる家とはあまりにも粗末過ぎて言えない小屋を楓は見つけた。
ここまで、どうやって来たのかは覚えていない。
ただ、身体の思うままに動かして、ここまで辿り着いたのだ。
楓は取っ手を握りドアを開いた。
「―――――― っ!!!!」
楓は中の光景に息を呑んだ。
そこで楓が見たものは
何もないガランとした部屋だった―…
ギィ・・・・・・・・・
使い古された木の扉が開いた。
何もない部屋の中央には楓が床に座り込んでいる。
その姿を認めて小屋の扉を開けた輪はホッと安堵の息をついた。
小屋の周りにはショロトルのものと、楓のものと、誰の足跡かわからない無数の足跡があったので
楓の身に何かあったのかと内心、焦っていたのだ。
輪は楓に近づき声をかけた。後ろからショロトルもついてくる。
「ったく、いきなり飛び出すからビックリしたぞ?
もうちょっと一般人と変わりなく動かないと黒蝶に目をつけられちまうぞ」
ようするに、目立った行動をするな。と言いたいのだろう。
輪は楓の肩に手をかけると、楓は一瞬、身体をビクリと震わせ
ゆっくりと頭を後ろに向け
今、輪達が居ることに気がついたかのように目を大きくさせた。
「あ・・・・・・輪・・・ショロトルさん・・・・・・・・・・・」
楓は力のこもらない声で名を呼んだ。
重い空気が辺りを包む。
何もない空間、楓のこの様子、小屋の周りにあった無数の足跡・・・
この状況はあの契約書を裏付けるには十分すぎた。
だから、輪とショロトルは楓の心情を察して何も声をかけてやることなどできなかった。
輪は楓の肩から手を外すと、楓は頭を元に戻し、俯いた。
「・・・ん・・・て・・・のに・・・・・・・・」
楓の喉からか細い声が出された。
何を言っているのか聞き取れなかった輪は眉をしかえ、背後にいるショロトルに顔を向けた。
ショロトルなら、今の声を聞き取れただろうと思ったからだ。
だが、楓が何を言ったのか聞く前に楓が再び口を開いた。
「信じ・・・てたのにっ!!信じてたのに!!
ずっと、ずっと、ボクはアノ人の子供だって信じてたのにっ・・・・・・!!!!」
最初にこの何もない部屋を見た楓は何が起こったのか理解できなかった。
部屋の中央に足を進め、回りを見渡し・・・
あの契約書の事実が完璧に肯定されたことを理解し、その場に崩れこんだ。
そして、輪が楓の肩を叩くまで放心状態だった楓が再び思考を開始したときに脳裏に浮かんだ言葉は
“裏切られた・・・”
そのことに楓はどうしようもない感情を言葉にして吐き出した。
「嘘、ついてた!・・・何も、知らないボクに・・・嘘を吹き込んでた・・・・・・!
ボクは・・・ボクは・・・・・・アノ人の子供なんかじゃなかったんだ・・・!!!」
記憶をなくした自分が目を覚ました時
何も覚えていない楓に母だと思っていた女性は自分の子供だと嘘偽りを吐いた。
そして2年間、その女性を母だと思い、一緒に暮らしていた楓は
他に人と接触していなかったせいか、かなりその女性に依存していた。
楓を黒蝶に売ったという事実にもショックを受けたが
それより何より楓は、自分と母だと思っていた女性が
本当は何も血の繋がりもない赤の他人だということを悟ってショックを受けた。
楓は輪の方に向きを変え瞳に溜まった涙を一筋、また一筋と流しながら輪にしがみついた。
「裏切った・・・!アノ人はボクを裏切ったんだ・・・・!!
信じてたのに・・・!ボクを・・・ボクを、見捨て・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・・!!!
見捨てないで・・・!!ボクは道具なんかじゃ・・・・・・!!」
「おい!楓!しっかりしろ!落ち着けって!!」
しがみついてきた楓に驚いた輪だったが
途中、楓が何を言っているのか、何を思ってそんなことを言い出すのか、分からなくて輪は半ば混乱した。
だが、狂乱している楓を止めようと再び楓の肩に手をかけ必死に声をかける輪。
楓は楓で、もう自分が何を言っているのか分からなくなってきた。
ただ、自分で言った言葉に反応し、脳裏に浮かんだ影に怯えていた。
動揺から混乱、混乱から狂乱へと変わっていった。
輪の言葉も届いていない。
「そんな・・・そんな目で見るなあぁぁっ・・・!!!!」
楓は輪の手を振り払い、輪を突き飛ばした。
そして、自分の頭を抑えて脳裏に浮かぶ影に向けて絶叫する。
「ボクは・・・・・・・・・・・・・・・・人殺しの道具なんかじゃ、ないっ・・・!!!!!」
楓の口からまさか、人殺しなんという物騒な単語を聞かされるとは思ってもみなかった輪とショロトルは驚愕した。
そして同時に、一体彼の過去に何があったのだろう―…とも思った。
楓は、何かを否定するかのように頭をフルフルと振っている。
人を落ち着かせるには人肌がいいと聞いたことがあった輪は、楓を落ち着かせようと楓を抱きしめた。
もう、こんな状態の楓を見るのは悲痛だった。
「落ち着け!楓!お前は人殺しの道具なんかじゃないから!
誰も、お前を見捨てたりなんかしないから!!!」
力強く楓に呼びかける輪。
その言葉にハッとなる楓。昔、そのようなことを誰かに言われた気がしたからだ。
「大丈夫、これからはいつも一緒だ。俺はお前を見捨てたりなんかしないから」
「楓は道具なんかじゃない。俺達と何も変わらないただの人間だ!」
―…誰・・・?
楓は無意識のうちにその記憶を辿ろうとする。
だが、その記憶は曖昧で上手く思い出せない。
何かに邪魔されている気がする。
―…君は誰・・・?
曖昧な記憶の中で見えたのは焦げ茶の髪をした小柄な少年。
懐かしい感覚に捕らわれた楓は次第に落ち着きを取り戻していった。
瞳に光が差し込んだのを見ると、輪はホッと溜息をついた。
正気に戻ったのだ。
「輪・・・?」
正気に戻り、現実に目を向ける楓。
輪に抱きしめられていることに気づいたが、抵抗する気にもなれなかった。
なんだかとても疲れていたし、それに、人肌が心地よかったからだ。
「・・・お前、疲れてるみたいだから今日はゆっくり休め」
「・・・・・・うん」
楓は泣きはらして疲れていたのか、すぐさま瞼を閉じて、輪の腕の中で眠りこけてしまった。
『輪、二階にベッドがあるからそこで横にさせろ』
いつの間にか二階へとあがり、探索を済ませてきたショロトルが輪を二階に行くようにと促した。
「わかった。今日はここに泊まるぞ。いいか?」
それにショロトルは頷き、輪は確認をとって楓を横抱きにして二階へと上がっていった。
二階には三つの部屋があり、そのうちの一室へと行き、木でできたベッドに近づく。
ベッドと言ってもスプリングもシーツもふとんもない。
それでも、床に寝かせるよりはましなのでベッドに楓を寝かした。
その部屋も何もなかった。
いや、何もない、というのはいささか語弊がある気がする。
机や椅子、本棚といったものはあるが、そこに収められているものは何一つなかった。
そんな、物がない部屋からそっと輪は静かに退出した。
輪が二階から降りてきてから、ショロトルと顔を見合わすと
先ほどの狂乱していた楓が言っていたことを思い出し、また重い空気が流れた。
とりあえず、腹が減ったので腹ごしらえをしようと、食料を調達しにショロトルが出かけていった。
その間に輪は、電気や水が出ることを確認した。
森の中だけあって、水は湧き水から引いてるらしく、水を止められる心配はなかった。
電気は自家発電らしいので電気にも困らなかった。
ガスの心配もなかった。焜炉はガスではなくて電気を使用して使うものだったからだ。
食料を調達してきたショロトルと共に少し遅めの昼ご飯を取った。
夜中に、楓は目を覚ました。
昼の出来事がまだ信じられなかった。
楓は思う。
これが、すべて夢だといいのに―…と。
しかし、目を覚まし辺りを見回すと、以前は母の部屋として使われていた部屋は
ガランとしていて何も無い。
全て、現実なんだと思い知らされたような気がした。
楓はここでやっと決意をし、覚悟を決めた。
否定して逃げたって、どうにかなるわけではないから。
楓はベッドから身を起こし、一階へと降りていった。
固いベッドで寝たせいか、身体の節々が痛かった。
「お!目が覚めたみたいだな!どうだ?気分は?」
上から降りてきた楓に気が付いた輪は楓に声をかけた。
ショロトルも楓に気づき、顔をそちらに向ける。
輪は何故か床に広がっている魚や何の動物だったのかはわからない肉、木の実、果物と睨みあっていた。
「ねぇ、輪。ボク、このままじゃ、いけない気がするんだ」
輪の問いには答えず、何かを決意したような瞳で輪を見る楓。
いきなり、何を言い出すんだ、と顔をしかめる輪。
「だからね・・・ボク、輪達と一緒に行動を共にしたい。
今までのボクは考えが甘かったんだ。
事実に目を背けても、何も変わりはしないのに・・・
いや、変わらないことを望んでいたのかもしれない。今まで送ってきた日常の不変を」
楓の決意を聞き、黙ってその言葉を聞く輪とショロトル。
「輪達のおかげで世界の裏側を知っちゃったわけだし
何より、ボクが記憶を失う以前は世界の真実を少なからずとも知ってしまってたみたいだし・・・
きっと、逃げられないんだ。逃げちゃいけないんだ」
楓はやっと決意した。
記憶がなくても今までどおり、普通に生活できればいいと今まで思っていた。
だが、母の裏切りやこれまでの黒蝶との接点を考えれば
その考えはとても甘いものだと思い知らされた。
もう、逃げない。
楓の瞳には強い意志があった。
「それに・・・ボクは前の自分が何を知ってしまったのか、何をやっていたのか、気になるから・・・
それを知るためには記憶を取り戻すことが必要になってしまう・・・・・・
だから、その・・・ボクの記憶が戻れば輪達の知りたいことが分かるわけで・・・・・・」
段々と口ごもってしまう楓に苦笑する輪。
楓は輪達と共に行動すれば黒蝶の情報が知れる。
そうすれば、何かしらのきっかけで記憶が戻るかもしれないと踏んだのだろう。
つまりは、輪達を利用するといったことが楓にはとても言いにくいようだ。
「いいぜ、別に。それでも。俺も願ったり叶ったりだ」
『そうだ。私達もお前を利用して真実に近づこうとしている身だ。気にするな』
「そうそう。利用し、利用され・・・っていう関係も悪くないんじゃないか」
輪とショロトルの言葉に驚く楓。
自分で言っといて何だが、楓は彼らを利用しようと言ったのだ。
それをあっさり承諾してくれるとは、思ってもみなかったのだ。
「いいの?ボクなんかを引き入れて・・・こんな厄介者」
「おい、自分で言っといてそれはないんじゃないか?」
「そ、それはそうだけど・・・」
「何はともあれ・・・お前、知りたいんだろ?自分のこと」
「・・・・・・うん」
「だったら、いいじゃねぇか。俺達の利害は一致してんだ。なら、行動を共にするしかないだろ」
「!・・・・・うん!」
楓は輪の言葉に嬉しくなり、力強く頷いた。
そんな楓を輪とショロトルは暖かく迎えてくれた。
「これから、よろしくお願いします!」
「おう!よろしくな!」
『よろしく』
話が一件落着すると、楓は先ほどから気になっていたことを一人と一匹に訊ねた。
「ところで、その食べ物は一体何?」
床に転がっている食物を指差して問う楓。
『それは、今夜の夕食用の食べ物だ』
「だけど、どう調理しようかと悩んでさー火はつくけど肝心の調理具がないんだよな。
昼は果物とか魚とかで済ましたけど」
輪達の会話に楓はそういえば、昨夜から水一杯しか腹に入れていないことに気づく。
気づいた途端にお腹が急に空いてきた。
ギュゥルルルゥゥゥ〜〜〜
「あ、あは。あはははは・・・お、お腹空いちゃったね!ボク食器とかの変わりになるようなもの探してくるよ!」
盛大に腹を鳴らした楓は、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして慌しく二階へ上がって行った。
楓が去った後に輪とショロトルは顔を見合わせて、プッと噴出した。
楓が上から戻ってくると夕食の仕度を始めた。
鍋の変わりに代用したのがバケツ。
バケツでビーフシチューもどきを作った楓はお皿の変わりに植物に使う受け皿にそれらをよそい夕食を食べた。
ショロトルは楓には刺激が少し強いかと思い外で余った鹿の肉をバリバリ引きちぎって食べていた。
今夜はバケツビーフシチューもどきという
きっと人生で始めての味を口にした瞬間だった。
+++アトガキ+++
書き直しても一話より長くなってしまいました・・・!
しっかし、最初に下書きしていたものと全然ちがくなっちゃいました。
今回の書き直しの点で書き加えたのが
楓君のお母さんとバケツビーフシチューもどき。
お母さんについては多分、後からも出てくると思います。あぁ楓君、可哀想に・・・<ホロリ
バケツビーフシチューもどきですが、ビーフシチューは楓君の得意料理です。
それを鍋がないからってバケツを代用するとは、何て機転が利く子なのでしょうか!
しかも皿は受け皿ときますよ、この子はっ!
さて、次はいよいよソロンニエの都となりますが、そちらも書き直そうかと思っています。
神よ・・・魔利に文才を与えたまえ・・・・・・・・・