The capital of soronnie 〜ソロンニエの都〜
ソロンニエの都、ここはニューフェイスタウンから東に位置する本の都とも呼ばれている街である。
そのソロンニエの都の綺麗に整備された道を銀髪の少年…紅月 楓 が足取り軽く歩いている。
彼が赤髪の少年…輪と、喋る獣ショロトルと共にこの街へ来たのは今から五日ぐらい前だった。
「ここが王宮図書館か・・・大きいなー」
人が行き来する中、楓は立ち止まって巨大な建物を見上げた。
そう、楓はこの王宮図書館を目指して歩いていたのだ。
王宮図書館とは、一生かかってもここにある本を読みきれない蔵書量を持っている、と言われているほどの図書室で・・・
それで、王宮並みの図書室ということで、いつのまにか王宮の図書の館、王宮図書館
と呼ばれるようになったのであった。
別にどこぞの王様の所有物だから王宮図書館と名づけたわけではない。
ちなみに王宮図書館以外の図書館は皆、図書室と呼んでいる。
楓は王宮図書館へと入って行った。
「うわーいろんな本が一杯だ。ここならあるかな・・・」
楓は密かな期待を胸に秘め、目当てのモノを探すべく書棚を捜し歩く。
この五日間、楓はソロンニエの都中の図書室という図書室の本をすべて読み荒らしていた。
それで今日はソロンニエの都、最大の図書室である王宮図書館へと足を運んだ次第だった。
「えーと・・・ワウルス族・・・ワウルス族・・・・・・・・・あった!さすが王宮図書館」
楓は目当ての文献を見つけ、パラパラとページをめくり読み出した。
楓が探していた本はワウルス族について書かれているものだったようだ。
「えーと・・・ワウルス族。
これまで喋る動物は何体も確認されてきたが、この狼は特に珍しく
群れで生活し、独自の規則を築き、ほぼ人間と変わらぬ社会生活を営んでいる」
楓はまたパラパラとページをめくる。
「ワウルス族には二種類あり、赤の毛並の赤狼(せきろう)と青の毛並の青狼(せいろう)がいる。
両者とも何か特殊な能力を持っているらしい。
その能力のおかげで今まで危険を乗り越え
また、山族(さんぞく)の民らなどは神聖な神の使いとして崇められている」
そこまで読み上げると楓はいぶかしんだ。
「赤と青・・・?ショロトルさんはどちらかといえば、それを足して2で割った感じの色合いだけど・・・」
『微妙な言い回しだな』
「あっ、そうですか?・・・・・・てっ、てててて・・・!ショロトルさん!?」
楓はいきなり話しかけられたことで驚いてショロトルに人差し指を向けた。
楓が本人のことを秘密裏に調べていたので驚きも更に増す。
『どうやら、私の・・・ワウルス族のことを調べていたようだが?』
ショロトルは楓をじと目で見た。
楓はいたたまれない気持ちになった。
自分だって、自分の知らないところで色々と調べられたら気持ちが悪い。
そう思った楓は潔くショロトルにペコリと頭を下げた。
「・・・せっかく、一緒に行動するのに、ショロトルさん達のこと何も知らないってわけにはいかないかなって思って・・・
あの・・・スミマセンでした!」
素直に謝る楓を見てショロトルは表情を柔らかくした。
『楓の言うことはわかる。だが、直接本人に聞こうとは思わなかったのか?』
「だって、輪は情報収集のツテがあるとかで宿にも帰ってこないし
ショロトルさんはショロトルさんで忙しそうだし・・・聞こうにも聞けなかったんです」
楓は楓なりに気を使って、調べられることは自分で最低限ののことは調べようと思い図書室中を駆け回って
ワウルス族についての文献を探していたのだ。
『・・・済まないな・・・私も情報を得るための入り口を探していたものでな』
「入り口・・・?それを探すのに五日もかかったんですか?」
『ああ。その入り口は一週間に一度、位置が変わるからな。毎回、探し当てるのに五日くらいはかかる』
ショロトルの言葉を聞いて「そうなんだ」と、納得した楓はここに来て疑問に思った。
何故、ショロトルはこんなところに居るのか、と。
そんな様子の楓に気がついたのだろうショロトルは言葉を発した。
『今後のために、楓をその場所に案内しようかと思ってな。なんせ私達は仲間・・・だからな』
「・・・・・・!」
ショロトルの“仲間”発言が嬉しくて楓は微笑んだ。
そして、楓はショロトルに促されるままにショロトルの後について歩き出した。
「それで、その入り口ってどこにあるんですか?」
『今回はこの王宮図書館内にある。楓、その6段目にある金の縁取りをした赤い本を取ってみろ』
「はい」
ガコンッ
ショロトルが歩を止めた通路には人が全くおらず、楓がショロトルに言われたとおりに本をとろうとしたら
鈍い音が響いた。
楓は驚いて本を放すと本は勝手に元の位置に戻った。
どうやら、この本は入り口とやらのレバーの役割をするようだ。
本棚が二つに割れて壁である場所には人が通れるような穴が空いていた。
どうやらこの本棚はフェイクので入り口を隠すためだけの物らしい。
『行くぞ』
ショロトルはそう言うと中に入って行ってしまった。
楓も遅れを取るまいと中に入る。
中に入った途端にセンサーでも付いているのだろうか
入り口は勝手に閉められて、何事もなかったかのように本棚はその場に存在した。
カラン カラン
落ち着いた雰囲気の喫茶店に客が来たと告げるベルの音が鳴り響いた。
店に入って来た楓は店内をキョロキョロと見回すと奥の席の方に最近見慣れた赤髪を見つけた。
「あ、いたいた」
楓は赤髪の人物、輪を見咎めて輪の元えと近寄った。
王宮図書館で情報収集を終えた後、楓はショロトルから輪がとある喫茶店で待っている、とのことを聞いた。
そして、そのとある喫茶店“シルバーシュガー”へと赴いたのだった。
このシルバーシュガーはソロンニエの都一おいしいケーキを出すと言われて有名な店だ。
「よっ!五日ぶりだな」
「うん!ホントに久しぶりだね」
『で?何か情報は得られたのか?』
「ん。まぁな。そっちはどうだ?」
「もちろん、あるよ」
『それでは、情報公開といこうか』
「失礼します。お水をどうぞ」
楓達が喋っているところにウェイトレスがやってきて楓の目の前に水を差し出した。
「すみません、今日のお勧め一つください」
「はい。かしこまりました」
楓がケーキの注文をすると、ウェイトレスは立ち去って行った。
それを見送ると輪は話を再開させた。
「さて、んじゃま、俺から仕入れた情報を伝えるぞ。
一年と半年前に黒蝶から黒蝶の秘密が隠されているであろうモノが何者かに盗まれたらしい。
んで、最近ではその盗まれたモノを取り返そうと黒蝶の動きが活発になってきているみたいだ」
ヒソヒソと前にいる楓とショロトルに聞こえるか聞こえない程度の音量でしゃべる。
輪の話を聞き終わった楓は輪に感心した。
「よく、そういう情報を仕入れてこられるよね」
「まぁな。そいうツテがいるんだよ。国家・・・もとい光闇社とゆかりのあるツテが」
『スザナという名の女性だ。・・・・・・姉御肌の』
楓の問いに遠い目をしはじめる輪とショロトル。
そんな一人と一匹の反応に戸惑う楓。
戸惑っている楓に気づいた輪が口を開いた。
「あー・・・うん。とりあえず、凄い女だぞ。アレは。
正直言って、あの女に情報聞きに行くのスッゴク嫌だったんだからな。
この五日間は本当に地獄だった・・・・・・」
再び明後日の方を向く輪。
『スザナほど凄まじい女はまず、いないだろうな。技術者としては超一流だが・・・・・・・性格破綻者なのがなぁ・・・」
ショロトルも再び遠い目をしだした。
楓は一人と一匹の話を聞き顔が引きつった。
―…一体、この人達にこんな表情をさせる、そのスザナという女性はどんな人なんだろう
楓はスザナに会ってみたいと思った。だが、輪達の反応を見ると少々、会いたくなくなってくる。
「そんなに、すごい人なんですか・・・・・・」
「『それはもう、吐き気がするほど』」
輪とショロトルの声が見事にハモった。
こんなに綺麗にハモることなんて、そうそうないだろう。
そして、心なしか空気が重くなったような気がする。
「じゃ、じゃあ、今度はボクとショロトルさんが調べた情報を伝えるね」
楓は務めて明るい声を出して場の空気を和ませようとする。
そこへ、楓が頼んでおいたお勧めのケーキを持ってウェイトレスがやってきた。
「お待ちたせしました。こちら、本日のお勧めのガトーショコラになります」
テーブルにケーキを乗せるて「ごゆっくりどうぞ」と言ってウェイトレスは去って行った。
ウェイトレスがいなくなるのを見計らって楓が輪に伝える。
「ここ最近、黒蝶が動き出して、ここ・・・ソロンニエの都で何かを探してるみたいなんだ」
楓はモゴモゴとケーキを頬張り「うん。おいしいv」と、言いながら輪に伝える。
周りのチョコの下に甘酸っぱいジャムが塗っており
5層になっているスポンジの間にはほろ苦いチョコレートクリームが薄く塗られている。
そのクリームとジャムがスポンジの真ん中の層にあるカスタードクリームが絶妙なバランスで味覚を刺激してくる。
「輪の話を聞いて思ったんだけど、これってやっぱり一年半前に黒蝶から盗まれた物が関係してるのかな」
「多分、そうだろうな」
『とすると、やはり銀影が妖しいな』
「銀影?」
「あぁ、そっか。まだ楓は裏事情、よく知らないもんな。
銀影って言うのはな・・・いまいち、銀影が何をしてる組織かはわかんないが、黒蝶と同じ規模の組織のことだ。
噂では、銀影の仲間がソロンニエの都でおいし〜いケーキの喫茶店をやってるらしいぜ」
輪は不敵にニヤリと笑みを作った。
楓はパズルのピースがはまったような気がした。
一年と半年前、黒蝶からあるモノを盗んだ人物。それは銀影の仲間がやったとしたら
今現在、黒蝶がソロンニエの都に来ているのも頷ける。
彼らは銀影の仲間を捕まえて黒蝶から盗まれたモノの在り所を吐かせるつもりなのだ。
しかも、輪が言っている噂が本当だとしたらここが、この“シルバーシュガー”に銀影の仲間がいるということになる。
「単なる噂かと思ってたけど、今回の噂は本当みたいだな」
「だとしたら・・・黒蝶がそのうちココにやってくるかもしれないね」
『運がよければココの連中が黒蝶から奪ったというブツがあるかもしれんな』
「決まりだな」
「?」
楓は不思議そうな顔をして輪を見上げた。
何が決まったのか、と―…
「今夜、ここに忍び込むぞ」
「え?」
「だから、ここに忍び込んで、そのブツがあるかどうか確認して、あったら黒蝶に奪い返される前にコッチが奪う
ま、無かったら無かったらで銀影の連中に聞きだしゃーいいしな」
「ええええええええええ!!??!」
楓の驚きの声が店中に轟いた。
お客や店員さんなどの視線が楓に降り注ぐ。
その視線に気づいて楓は苦笑いを漏らし、恥ずかしさで顔が赤く染まる。
人々の注意が別のところに移り始めると、楓は輪にヒソヒソ声で話し始めた。
「だって、それって、不法侵入じゃないの!?犯罪だよ!?」
「俺から言わせて貰えば、簡単に侵入できるほどセキュリティーを軽くしてる方が悪いと思うけどな」
『そうだな。明らかに我々ではなくて向こうに非がある』
「その考え方はどうかと思いますけど・・・」
「真正面から行ったってつき帰されるか、悪けりゃ処分されちまう。ま、不法に侵入してもバレなきゃ平気だろ」
「今回の件についてはしょうがないとは思うけど・・・」
楓は正直言って犯罪を犯したくはなかった。
だが、仲間になったのだから、輪達の行動にあれこれ言わず付いて行った方がいいのでは・・・?
そう考えた楓は良心が痛むのを抑えて、不法侵入をする決断をした。
「まぁ、楓はそんなこと気にしなくていいぞ。楓は留守番してもらうから」
「何で?」
せっかく痛む良心を無視して不法侵入をする決断をしたというのに、輪にお留守番宣言されてしまった。
輪は輪で、楓が行く気だったのを以外に思った。
「だって、ほら・・・危険かもしれないだろ?」
「だから、何で?」
「だぁ〜かぁ〜ら〜・・・危険だって言ってるだろーが」
「だから、どうしてさ」
「さっきから言ってるだろ!危険だって!」
「だから!どうして危険だからボクは行っちゃいけないのって聞いてるんだ!」
輪は楓のしつこさに痺れを切らして少々怒鳴って言ったが
楓も相手が中々言葉の意味合いを理解してくれなくて声を荒げた。
すると、またもやお店中の視線が集まる。今度は輪も一緒だ。
「あそこは危険区域だからお前は来ちゃダメだ。借りは俺が返すから」
「・・・でも、自分だけ安全な場所にいるなんて・・・そんなの嫌だよ」
さっきの言葉を誤魔化すように輪が咄嗟に演技をする。それに楓も乗ってくれた。
「なんだ、ただの痴話喧嘩か」と、視線が二人から外れていく。
失礼だが、楓は顔がすっごく整っている。まるで人形だ。そのせいで女にも見える。
その女にも見える楓のおかげで誤解を生むことも無く誤魔化せたのだ。
今、彼らは男女の痴話喧嘩だと思っているだろう。実際は男と男の痴話喧嘩なのだが・・・
視線が無くなったところで話を再会する。
「〜〜〜〜〜・・・お前・・・そんなに行きたいのか?」
「不法侵入することは気が滅入るけど・・・でも、そんなこと言ってられないでしょ?
輪達ががんばって手がかりを掴もうとしてるのに、ボクだけ安全なところで悠々としてられないよ」
「どーしたもんかねぇ・・・・・・」
輪は自分の頭をガシガシと、かきむしった。
『別にいいのではないか?一通りの戦闘のことは教えてやったのだし』
「ショロトルさん・・・!」
ショロトルが楓の見方をしてくれたのが嬉しくて笑顔を振りまく楓。
楓はソロンニエの都に来る前、エンゲツの森で輪達に銃などの使い方を教わっていた。
その時の練習での楓の実力は申し分無かった。
輪もそれは知っているので、しばらく腕を組んで考えていた。
そして、組んでいた腕を両側に上げて万歳の形をとる。そして溜息を一つついて了承の意を唱えた。
「わかった。それなら、今日は全員で行こう」
「うん!」
ソロンニエの都で一番おいしいケーキを出している喫茶店と評判の“シルバーシュガー”で
今夜、そこに忍び込むという約束を輪とショロトルにした楓。
その様子を一台の超小型監視カメラが捕らえていたことを楓達は知らない。
+++アトガキ+++
第三話の書き直し終了いたしました〜
今回の追加点はですね、やはり“スザナ”姉さんでしょうか!
今後もスザナ姉さんの話題を散りばめていこうかと思っています。
そして変更した点はですね、楓君が独自にショロトルさんについて調べていたことでしょうか。
その方が、楓君一杯喋ると思って・・・
今の楓君、前より主人公っぽく見えますかね?
第四話も書き直しします。
第四話はついに!やっと!黒蝶メンバーと銀影メンバーが出てきますよ!
ちなみに私は黒蝶メンバーが好きですよ♪