King's palace library 〜王宮図書館〜
コツン・・・コツン・・・
暗い階段を下りていく靴音が響く。
そこを歩いている人物は二人。
金髪の髪をした長身の人物と焦げ茶の髪をした背の低い少年。
「まさか、こんなところで情報処理されてたなんてな」
「まったく・・・銀影も小ざかしいことをしてくれる」
背の低い少年が金髪の男に声をかけ、金髪の男が憎憎しげに呟く。
階段を降りきると床に不思議な模様が描かれた板が置いてあった。
それは、転送装置と呼ばれる物で・・・
強力な磁場を発生させ異次元を作りその異次元を通って別の場所へと移動する、最新の移動装置だ。
今の科学技術は異次元をも征するほどの技術力をもっているのである。
「チッ・・・どうしても正確な場所を知られたくないようだな」
「どーでもいいじゃん。どうせぶっ壊すんだろ?」
「・・・そうだな。さっさと終わらせるか」
二人は転送装置へと足を乗せた。
すると、板が強く光を発し次第に二人の姿は蜃気楼のように揺らめいてその場から姿を消した。
二人が再び姿を現したのは何千というスクリーンがある部屋の中央だった。
「うげー・・・転送装置って便利だと思うけど、この感覚をどうにかしてほしい・・・・・」
「文句を言うな聖夜」
あずま
「だってさー亜澄麻・・・」
金髪の男、亜澄麻のギロリという視線を受けた身長が低い少年、聖夜は口ごもった。
「しっかし、ここを見つけ出すのに時間かかったなー・・・銀影も中々やるな」
「まぁな。ソロンニエの都は銀影が作ったと言っても過言ではないからな・・・」
「え!?何それ、オレ初耳なんだけど」
「最初は本の市場を行っていたそうだが、政府に許可を貰っていない不正な本、目当てで各地からここに集まったんだ。
それが段々とエスカレートしていって本屋が出き、印刷会社が出き、宿屋が出き
そして・・・王宮図書館といったものが出来上がったのだ。
本の市場を突然やりだしたのも、不正な本もソロンニエの都の建設図も全て銀影がやったものだ」
「だから、ソロンニエの都って変な仕掛けが多いのか。ここの入り口みたいに」
「そういうことだ」
亜澄麻が語り終わると聖夜は納得した。
銀影がソロンニエの都に完全に関与しているならば、この場所を黒蝶である自分らが見つけ出すのに時間がかかったのも頷ける。
亜澄麻は部屋全体に埋め尽くされているスクリーンに向かって歩いていった。
どのスクリーンにも映像が映っていたり、文字が流れていたりしている。
ここにはこの大陸のすべての情報が集まり、整理され、保管されているのだ。
亜澄麻はコントロールパネルをいじくり、銀影のメンバー表を探ってみた。
彼には確かめたいことがあったのだ。
―…もし、彼女の名前がここにあったのなら、例のブツはきっと彼女の元にあるはず・・・
亜澄麻は忙しなく目と手を動かす。
そして、見つけてしまった。彼女の名前を・・・
「あった・・・・・・・・・」
亜澄麻が見つけた名前、それは
“荒鬼 舞夜”
彼女は聖夜の双子の妹だ。その双子の片割れは一年半前に黒蝶を脱走している。
そのときに黒蝶が抱えていた例のブツを彼女は盗んでいるのだ。
それからは行方がしれなかった。
だが、今、見つけた。
まさかとはずっと思っていたが、やはり彼女は銀影に組していたのだ。
亜澄麻はその情報欄を消した。
聖夜はスクリーンを見ては「スゲー」とか「ウオー」とか言っている。
「聖夜、離れていろ。今から壊す」
亜澄麻はスクリーンに手を置きながら聖夜に告げた。
聖夜は言われたとおりに亜澄麻から距離を置く。
それを見咎めて亜澄麻は置いた手に集中する。
「圧縮!!!」
そう、亜澄麻が叫ぶとその場が爆発を起こす。
息を吹き込み過ぎた風船のように、その爆発は内側から外へと起こった―…
******
――― 午後4時頃、王宮図書館で大きな爆発が起こった。
その速報のニュースをモニター室で見ている少女。
彼女が亜澄麻が先ほど調べていた、舞夜だ。
舞夜の顔色はなんだか暗い。
―…ついにあの場所を見つけてしまった、か・・・
「と、いうことは私のことも知っちゃったんでしょうね。鬼黒・・・亜澄麻・・・・・・」
そうなれば、すぐにでもここに乗り込んで来るであろう。
アレを取り戻すために・・・
アレは絶対に渡してはいけないのだ。それは、彼との約束だったから・・・
彼はアレをアイツ等に奪われてから、舞夜が勝手に「機会があったら盗って来てあげる」と約束をしたのだ。
そしたら彼は驚いた顔をしてから「無理をして盗らなくてもいい」と言って微笑んだのだ。
今、舞夜の手には彼の物だったアレがある。
だから、舞夜は彼にコレを渡すまで、誰にも奪われてはいけないのだ。彼との約束を果たすまで。
舞夜は彼に思いをはせて、軽く溜息をついた。
だが、彼は二年前に行方をくらましてしまって、生きているのか死んでいるのかさえわからない。
黒蝶のやり方に疑問を持って一年半前に抜け出した自分はそれなりの情報を持っている組織に組するしかなかった。
だから、舞夜は銀影に入ったのだ。黒蝶にはもう居られないから・・・彼の情報を知りたいから・・・
「今、どこで何をしているのよ・・・紅月・・・・・・」
顔を上げ、そっと、彼の名前を言う舞夜。
顔を上げたときに目に飛び込んできたモニターに釘付けになった。
それは彼と同じ銀の髪。そして、澄んだブルースカイの瞳。
舞夜は食い入るように見つめた。
「うそ・・・・・・生きて・・・た・・・・・・」
舞夜は思わず手で口元を押さえた。そして、音声をONにして、彼の声を拾った。
店の中の慌しい音。客の話し声。ドアが開くたびに鳴る鐘の音。そして、その中には彼のものと思わしき声―…
『・・・でも、そんなこと言ってられないでしょ?輪達ががんばって手がかりを掴もうとしてるのに、ボクだけ安全なところで悠々としてられないよ』
久々に聞く彼の声は二年前とまったく変わっていなかった。
変わっていることといえば、彼の喋り方と、雰囲気。
舞夜は落胆した。
彼とは違う。
こんなにも似ているのに・・・
ここに居る彼は自分の知っている彼とは違った。
舞夜はノロノロと身体を動かしてウェイトレスの服に着替え始める。
もうすぐ、交代の時間だ。
舞夜は着替え終わってから鏡を見た。
なんとも辛気臭い顔をしている。
「あーぁ・・・こんなんじゃあ夏樹に怒られちゃうわね・・・」
厨房で一人でメニューを作っている黒髪の眼鏡の青年を思い薄っすらと笑みを浮かべた。
舞夜は彼のことを忘れるかのように頬をピシャリと叩いて仕事へ集中できるように心機一転した。
「よし!がんばるぞ!」
そう言って舞夜はシルバーシュガーへ赴いた。
******
宿屋へついた楓達が与えられた部屋の扉を開けてみると荷物が届いていた。
「何?これ?」
「それな、スザナに頼んで送ってもらったんだ。ま、とりあえず開けてみろよ」
「うん」
楓は部屋にあがり、荷物を開け始めた。
『金はどうしたんだ?』
「金はスザナ持ち。・・・俺がスザナの手伝いをしたらっていう条件付きで払ってもらった」
『・・・だから帰ってくるのに時間がかかったのだな』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ショロトルの言葉で地獄の日々がフラッシュバックした輪は部屋の隅に縮こまってしまった。
「輪、これ・・・!!」
「ん?そう。お前のために買ってきた服だ。いつまでもそんな格好じゃ旅はできないだろ?」
荷物の中身は真っ黒の服だった。
その黒い服を見つめながら楓は何かの蓋が外れるような感覚に襲われた。
黒―…
黒い服は正装服―…
何ノ・・・?
任務の―…
黒い服は目立たない―…
何ガ・・・?
血が―…
人を殺してもその血を浴びても目立たない―…
だから黒い服は非道な任務の正装服―…
・ ・
“黒い衣を翻して人を殺し舞う姿はまるで蝶のようだな。君は、黒蝶の象徴だよ月桂”
「おい、楓?大丈夫か?」
「え・・・?う、うん!だいじょぶ!ありがとうね、輪!服くれて。じゃ、ボクちょっと部屋で休んでくるよ」
輪の言葉で我に戻った楓は何かを誤魔化すように笑い服を持ってそそくさと部屋へ引っ込んでしまった。
部屋に入った楓はボスンっとベッドに勢いよくダイブした。
ここの宿は宿代が安い割に居心地がいい部屋だった。
ベッドの上に服を抱え込みながら、昼間見た映像を思い出した。
楓は情報を得るための入り口にあった転送装置でショロトルとは別の場所へと転送されてしまっていたのだ。
どうして、楓だけそうなったのかはわからない。
部屋の中央には丸い球体の映像マシンが置かれていたのだ。
前々から世界のおかしさには楓も気づき始めていた。
ソロンニエの都に来てから五日間、楓は本を読み漁った。文献も物語などの本も全部。
本を読んでいるうちに楓は違和感を覚えたのだ。
何故、一つもハッピーエンドでは無い物が無いのだろう・・・と。
どれを読んでも無いのだ。全部、ハッピーエンドで終わる物語ばかり。
試しに法律の本を読んでみた。すると、本の出版は規制されていることがわかったのだ。
本を出すためには政府の役人がその内容を確認して調印しないと出版できないのだ。
何故、そういうことをするのかと、楓は最初思った。
これは世界に対する、ほんの違和感程度にしか過ぎなかった。
だが、映像マシンの映像が流れ出してからは楓は輪の言っていた世界のおかしさというものを感じた。
楓が見た映像は人と人が殺し合う・・・つまりは戦争、だった。
ニュースでも本でもそういった内容のものは取り扱っていない。
どれも“平和”ということをやけに大きく取り扱っているだけだ。
きっと、政府は戦争とか虐殺だとか、そういった類のものを規制しているのだろう。
国民に戦争という言葉を知らせないために。
その意図はわからない。
だが、その“平和”とやらが嘘っぱちなのは明らかだった。
楓は映像を見て衝撃を受けた。
国に裏切られた気分になった。
世界は“平和”を謳い“平和”を偽ってその裏ではこうして戦争をしているのだ。
しかも、国民には秘密で。
国民は知らない。
国民は知らないで偽りの“平和”を堪能している。
本当の平和ではないのに、それでいいのだろうか・・・?
映像がぶれて、何かが映り始めたところで転送装置が起動し、楓はショロトルがいるスクリーンがある部屋へと行ったのだ。
その時に聞いた声が今でも耳にまとわりついている。
“やっと、会えたね―…”
あれは、誰の声だったのだろうか・・・?
考えてもしょうがないので、深く考えるのを止める。
とにかく、自分はもう輪と同じく世界に疑問を持ってしまった。
世界はおかしい。狂っている。偽りの平和を唱えたところで一体何があるというのだ?狂っている。
狂った世界の真実を知るには、己の失った記憶のみ。
楓は、絶対に記憶を取り戻そうと心に誓って眠りについた。
******
「うひゃーハデにやったなぁ。マジ死ぬかと思ったぞ」
あの部屋を爆発してから、瓦礫の雨を潜り抜けて外へと脱出してきた聖夜はゼーハーと息を継ぎながら言った。
王宮図書館の周りには警察がいて、現場検証なんてやっている。
亜澄麻は任務終了を黒蝶本部に電話をしていた。
「こちら831番隊の 鬼黒 亜澄麻 です。銀影のハッキング装置の爆破任務、終了しました。はい。明日には戻ります。では・・・」
と言って、携帯電話を切る亜澄麻。そしてそれをポケットにしまう。
「さーて、仕事終わったし、何か上手いもの食べに行こうぜ♪
あ!あそこがいいな。シルバーシュガー!あそこのケーキ一度でいいから食べてみたかったんだよな〜♪」
「その、シルバーシュガーなんだが・・・」
亜澄麻は深刻な顔をして聖夜に言う。
何だ?シルバーシュガーの閉店はもう過ぎた。とか言うのではなかろうな。と、聖夜は亜澄麻を見る。
「噂で、銀影の仲間がソロンニエの都でおいしいケーキの喫茶店をやっていると聞いたことがある」
「それが?」
「もしかしたら、そいつ等が黒蝶から盗んだブツを持っているかもしれない」
「何?手土産にそれを盗ろうっての?」
「そうだ。ま、俺の勝手な見解だから、お前は付いて来なくてもいいぞ」
「なんだよ、それ!オレだけ仲間外れか!?ふざけんなよ。何のためのパートナーだと思ってんだ!!」
聖夜の言葉にフッと苦笑を漏らす亜澄麻。
いつも無表情な彼には珍しい変化だ。
「では・・・今夜、のりこむぞ」
「おう!」
陽が落ち、空が闇に包まれる時
三者三様の思いを抱えて動き出す―…
+++アトガキ+++
第4話書き終わりました・・・
今回の書き直し点は銀影が実は黒蝶並の組織力を持っていることですかね。
銀影が何の為に作られた組織かはそのうち書きますよ〜
亜澄麻が言ってた隊の番号は適当です。
最近、魔利が後輩のペンネームをyayoiじゃなくてyasaiと読んでしまったので隊の番号も831(野菜)にしてしまいました(笑)
語呂で報告したら溜まんないですね!(爆笑)
だって「こちら、野菜部隊です」な〜んて亜澄麻が言ってることになるんですよ!?
自分で書いてて笑える。キャ、キャラじゃねぇ・・・!!
そして、そして。ついに亜澄麻の能力発揮です。圧縮の能力の細かい説明はまた後日で・・・(笑)
んで、楓君、誰かと映像接触でございます。この人も多分話が進むにつれて正体が明らかになってくると思いますよ★
さて、次の話・・・第5話になりますね。
これも後々、書き直しいたします。
戦闘シーンとかもっと上手に書きたいです。ハイ。