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A
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~開かない箱~
ニューフェイスタウンのとある所に一台の黒い車が止まった。
その車の中から聖夜が降りた。続いて亜澄麻が降りた。
聖夜が車から降りて何気なく前を見た。
「ゲッ・・・Dr. ロウエン・・・・・・・」
二人の目の前には初老の男が立っていた。
どうやら聖夜はこのDr. ロウエンのことを苦手としているらしい。
「Dr. ロウエン。どうしてあなたがここに?」
亜澄麻がロウエンに訊ねた。
このDr. ロウエンという男、黒蝶に仕えている科学者なのだ。
一般で使用されている機械や装置などもこの男が発明したものばかりだ。
「そこの小僧に用があってここまで来た」
ロウエンはつかつかと聖夜の元へと歩より聖夜のことをジロジロと見たりしていた。
「これだ!」
聖夜の袖についていた髪の毛を二本抜き取って自分の目でマジマジと観察してからロウエンは叫んだ。
一本は銀。もう一本は赤色をしていた。
「それは・・・」
「察しのとおり、これは月桂と日輪の髪の毛だ。これであやつらの能力の秘密がわかるだろう」
そう言うとロウエンは不気味なほどの笑みをつくった。
聖夜はその笑みを見て寒気がした。そんな聖夜を尻目に亜澄麻は一週間前に行われた
月桂の記憶を盗るという任務が失敗していたことを詫びた。
その件についてはロウエンはふむ、と言って顎に手をあてるだけでお咎めはなかった。
聖夜はふと、銀影に盗まれた例のモノのことを思い出した。
「そういえば、じいさん、例のアレはもういいのか?」
「あぁ・・・・・・“箱”のことか・・・アレはもういい。アレはこの私でさえ開けられなかった。
だから、銀影の奴等が何をしたって中身を知ることもできないだろう。
それに今日は思わぬ大収穫があったからな。私はコッチの研究の方に専念したい」
またもや不気味な笑みを浮かべ、ロウエンは去って行ってしまった。
その後姿を見て聖夜は思い出したのかのようにポツリと呟いた。
「・・・そういや、何でじいさん俺の服に二人の髪の毛がついてるってわかったんだ?」
ゴオォォ・・・ン
ズウゥゥ・・・ン
轟音の中、黒い衣服に身を包んだ一人の少年が走っている。
その少年の動きが止まった。
少年の目の前に人が立ちふさがっていたからだ。
「聖夜・・・・・・!」
「どうしてこんなことをする!?」
「どうして?お前は何も知らないからそう言えるんだ。無知というのは悲しいものだな」
「どういうことだよ・・・俺にちゃんと理由を説明しろよ!親友だろ!!?」
「・・・・・・いいだろう・・・教えてやる。お前達、黒蝶のやっていることは・・・・!」
ズウゥゥ・・・ン・・・・
少年が口を開いて聖夜に向かって言った言葉は轟音に掻き消された。
だが、聖夜の耳にはちゃんと聞き取れたらしかった。
「・・・わかった。俺も一緒に行く。お前の力になるよ」
「ありがとう・・・聖夜」
少年は聖夜の前を通り過ぎようとした。
「!?」
が、聖夜に腕を捕まれそのまま下へと落とされてしまった。
「ゴメン・・・・」
聖夜の謝罪の言葉だけが少年の耳に残った。
その背後には見たこともない生き物・・・
「セイヤ―――――!!」
下へ下へと落ちていく中、少年は叫んだ。
「聖夜っ!!!?」
ガバッとソファから上半身を起き上がらせる楓。
しかし、すぐに見慣れない場所にキョロキョロと辺りを見渡す。
「ふえっ!?ってあれ・・・?ここ、どこ?」
『銀影ソロンニエの都支部の中だ』
楓の問いにショロトルが答える。
「ショロトルさん・・・え、あれ?銀影って・・・なんで?それに黒蝶は・・・?」
『黒蝶は立ち去った。銀影がなぜ私達を助けたかというと・・・』
「あなたに用があるからよ」
ショロトルの言葉を遮って少女の声が割り込んだ。
楓とショロトルはその声がした方に振り向く。
そこには箱を抱えている舞夜の姿があった。
舞夜はゆっくりと楓に近づいていく。
「私は 荒鬼 舞夜。銀影よ」
舞夜が楓に自己紹介をする。
楓は舞夜の顔を見て驚いた。先ほどまで対峙していた黒蝶の、夢で見た彼の顔と一緒だったからだ。
楓が舞夜に魅入っている理由を察知したショロトルが説明した。
『先ほど対峙した聖夜という小さいやつと彼女は二卵性双生児…つまりは双子らしい』
「あ、なるほど・・・」
納得する楓。
そして、すぐに舞夜と向き直る。
「えと…ボクに用ってどういうことですか?ボクとあなたは初対面のはずですよね?」
初対面、その言葉を聞いて舞夜は一瞬、悲しそうな顔をした。
話してみてわかったが、顔や声は彼、そのものだが、やはり自分の知っている彼ではなかった。
彼もまた自分を知らない。
しかし、舞夜はモニターで彼の覚醒した姿を見て、彼の深紅の瞳を見て核心した。
彼だ、と…
あの声、あの雰囲気、あの強さ、そのどれもが2年前の彼のものだった。
間違えるはずがない。間違えるわけがないのだ。
だって、自分は彼のことをずっと―…
「そうね。今のアナタとは初対面ね。でもアナタが記憶を無くす前は私達会ってたのよ、紅月 楓」
舞夜は悲しそうに笑った。
楓は舞夜の言葉に驚いた。
「え・・・?」
「そのときに、アナタと約束したの。この箱をアナタのもとに必ず届けるって」
そう言って舞夜は手に持っていた箱を楓に渡す。
楓はそれを受け取る。
『この中身は何が入っているのか知っているのか?』
「わからないわ。この箱、特殊な電磁波発してるらしくてX線使ってもダメだったのよ」
一人と一匹の話をBGMに楓は箱をまじまじと見つめていた。
とても懐かしい感じ。とても大切なものが入っている気がする―…
楓は箱の上蓋に手をかける。
すると、ピピ…という電子音が聞こえたかと思うと蓋が簡単に開いた。
「あ、開いた」
楓が箱が開いたことを告げると辺りが静かになった。
『開いたみたいだな』
「え、嘘!?今まで何やっても開かなかったのに!!・・・あ!もしかして」
『指紋センサーがついていたのだろう。それなら特定の人物しか開けないからな』
そうなると、この箱の持ち主は楓だったということになる。
舞夜もこれで安心できた。人違いではなかったことに。楓は彼なのだと。
楓は箱の中にポツンと置いてある物を取り出し、それを上に掲げ、ポツリと呟いた。
「カギ・・・?」
それは何に使うのかもわからないアンティークな作りの鍵だった。
楓が何を思うでもなくじっとその鍵を見つめていると舞夜が入ってきた扉が再び開いた。
「舞夜様、日陰さんが起きましたよ」
楓達が居る部屋に入ってきたのは黒髪の青年、夏樹だった。
夏樹は楓が起きていることに気づきニッコリ微笑んだ。
「紅月さんも起きられたのですね。お初にお目にかかります、緑韻 夏樹 です」
ペコリと礼儀よくお辞儀をする夏樹。
「え、えと…アナタも前にボクと会ってたりするんですか?」
「いいえ。今日、初めてあなたとお会いしましたよ」
「お前のこと知ってるのは黒蝶を脱退した舞夜だけなんだと」
夏樹の後ろから楓に声をかける輪。
夏樹は身体を横にずらし、輪が部屋に入りやすくしてあげた。
「輪!・・・でも、そうすると・・・」
「そうだな。この話が本当ならお前も黒蝶に居た、ということになるな」
トコトコと楓がいる方へ歩いて近づいていく。
そして、楓が手に持っているものを見つける。
「それは?」
「あ、これ?この箱の中に入ってたんだ」
楓は輪によく見えるように鍵と箱を見せた。
鍵と箱と楓を交互に見てから輪は舞夜の方に顔を向けた。
輪が言わんとしていることを悟り、舞夜が口を開く。
「この箱…私が黒蝶を脱退したときに盗んだものよ。2年前、紅月と約束していたの。この箱を必ず紅月のもとに届けるって」
舞夜が鎮痛な面持ちで輪から視線を外し楓を見た。
「…てーことは、記憶が無くなる前は楓は黒蝶に居て?その鍵を何かに使ってて
誰にも触らせないようにその箱にいれて…んで舞夜にも会ってると」
「というか、一緒に任務をすることが多かったわ」
舞夜の言葉に反応した楓は、少し慌てた様子で舞夜に聞いた。
「それって、もしかして聖夜も一緒だった?」
「そうよ。…ってもしかして記憶、戻ったの!?」
期待の眼差しで楓を見る舞夜。
「いや…戻っては、ない……でも、聖夜をあの時見たときからなんだか懐かしい感じがした…
舞夜も見てると、話してると、そうなんだ。とても懐かしい…」
楓の声音はなんとも穏やかだった。
舞夜は視界が歪むのを感じた。
完全に記憶を無くしたわけではない。まだ望みはある―…
「それに…夢を、見たんだ」
「夢?」
続けざまに紡がれる言葉に反応したのは輪だ。
「うん」
楓はコクリと頷いた。
『その夢が記憶の一部かも知れんな』
「で、どんな感じだった!?」
身を乗り出して問いただす輪。
そして、楓はさきほど見た夢の内容を話した。
「で、落ちていく途中に聖夜の背後で何か変な動物が動いていたのを見た・・・」
そう、夢の中で楓は確かに見たのだ。
聖夜の背後にうごめく得体のしれない動物が・・・
「あんなの見たことないよ・・・・」
夢の中に出てきた動物を思い出してか、楓は小さく呟いた。
「て、ことは・・・多分そこで一度目の記憶がなくなったんだな」
『そして二度目はエンゲツの森でか』
輪とショロトルがう~んと唸って考える。
夢の内容があまりにも漠然としすぎていて憶測もできない。
舞夜も楓が話す夢の内容に覚えが無いのか、沈黙を守っている。
「とりあえず、記憶が無くなる前は楓は黒蝶に居て舞夜と一緒に任務を遂行して何かの施設の爆破をしてた…」
輪が今まで聞いた話しをまとめあげた。
「と、すると、楓が何か重要なことを知るきっかけが出来たのはその鍵のおかげっていうふうに考えるのが妥当だな」
「ねぇ、輪」
「何だよ」
「この鍵、どうやって手に入れたんだろうね?」
「んなの、俺が知るわけねぇだろう!!」
楓の天然な問いに輪が鋭いツッコミを入れる。
輪がそれを知っていたらそれはそれで問題がるが…
「はいはい。もう、そんなこと考えてたってしょうがないでしょ」
「そうですよ。皆さんお茶にでもしませんか?」
『お前達、私達に友好的にしているが、他意でもあるのか?』
ショロトルの言葉に楓と輪は舞夜の方に向いた。
舞夜と夏樹は顔を見合わせ、微笑んだ。
「確かに、銀影という組織に組していますけど…別にあなた方をどうこうするつもりはありません」
「そ。銀影は対黒蝶のために立てられた組織。つまりはレジスタンス。
その主な活動は黒蝶の動向を探るためと思惑を知るため。
それ以外のことは何もしないわ。安心していいのよ。私達はアナタ達の敵じゃない。
むしろ、同じ目的を持っている仲間だと思っていいわ」
話し終わると舞夜はニッコリ微笑んで楓達に手を差し伸べた。
楓も輪も微笑むと舞夜の手に己の手を重ねた。
ショロトルはどこか満足そうに瞳を和らげた。
亜澄麻はDr. ロウエンに呼び出されて研究室へと足を運んでいる。
ロウエンは忙しなくパソコンをいじっている。
画面には螺旋状になっているものが映し出されている。
どうやらロウエンはDNAの解析をしているらしい。
そんなロウエンに亜澄麻は話しかける。
「Dr. ロウエン、お呼びですか?」
「ああ。亜澄麻か。久々にスリリングなものが見たくてね」
「はぁ…」
何を言いたいのかわからない。
「そこで、十日後にトバルシティで格闘大会をやってほしい」
「…わかりました」
「うむ。それで、もし月桂と日輪…それから不死の者が現れたらその戦闘を記録してきてくれまいか」
まるで、来ることがわかっているような口ぶりだ。
亜澄麻はもう一度、了解の意を唱えると研究室を出て行った。
「頼んだよ」
誰もいなくなった部屋でDr. ロウエンは薄ら笑いをしていた。
+++あとがき+++
やっと7話、書き直し終了~~~
今回の書き直し部分は舞夜と楓君の関わり。
謎がやっと深まっていきましたね!
そして、またまた新キャラ登場な予感!?
それでは皆さん、また次のお話で会いましょう!