Bloom 〜開花〜
パーン、パーン
トバルシティに銃声がとどろいた。
「しゃあ!賞金ゲットするぞ!」
腕を思いっきり振り上げて叫ぶ輪。
輪とは対照的に楓は沈みきっていた。
「何でボクまで登録されてるの・・・」
『すまん、楓。だが、こうすることで賞金に辿り着く確立が高くなるんだ』
「それは・・・わかりますけど・・・・・・でも、こういうのはちょっと・・・」
楓は視線を手に持っている紙を見た。
紙には―・・・
トバルシティ、コロシアム大会!
バトルロワイヤル形式で一つの会場で参加者全員が戦い最後に勝ち残った者に
賞金500万エクスを配当!!
さぁ、相手を再起不能にして賞金をGetしよう!!
と書かれていた。
『これには再起不能・・・と書かれているが、殺さなくてもいいんだぞ?いいか、楓。相手の足を狙って撃て。わかったな楓』
「はい」
楓は意を決したように頷いた。
「さ、もう時間だ。行くぞ楓」
「うん」
「私と夏樹は椅子に座って観戦してるわ。がんばってね、紅月」
「うん。あ・・・舞夜、ここまでボクらを連れてきてくれてありがとうね。じゃあ、行ってくるね」
楓は笑いながらそう言うと輪の後を追って走り出した。
「おっ!そろそろ始まるぞ」
望遠鏡を覗き込み、ポテトチップスを頬張りながら亜澄麻に話しかける聖夜。
「機械の準備は出来たか?」
「もう出来る」
亜澄麻はパソコンから目を離さず言う。
「ちょっと、ここの席いいかしら?」
「どうぞー」
聖夜が望遠鏡を外し、訊ねてきた相手の顔を見ながら言った。
しかし、聖夜の顔を見るなり訊ね人は顔を強張らせた。
「どおして・・・あんたがこんなところにいるのよ」
「はい?なんのことだ?」
聖夜はそころじゅうにはてなマークを飛ばしている。
聖夜に話しかけたのはなんと舞夜だったのである。もちろんその隣には夏樹がいる。
不思議そうな顔をして舞夜を見ている聖夜に舞夜は言い知れぬ不安が胸中に広がった。
2年前、楓が行方不明になったとき、聖夜は彼のことを綺麗さっぱり忘れ去っていたのだ。
まさか、今度は黒蝶を脱退した自分を忘れるとは…
舞夜はますます黒蝶に対し、疑問を募らせた。
「・・・舞夜・・・・・・」
亜澄麻がパソコンから顔をあげ舞夜の存在を確認した。
舞夜も亜澄麻のことを確認する。
「亜澄麻もいるのね・・・」
舞夜は亜澄麻がまだ自分を忘れていないことに少し安堵した。
「?何だー亜澄麻の知り合いか?もしや、彼女!?亜澄麻も隅に置けねーなぁ」
ニヤニヤと笑いながら茶化す聖夜。
そして舞夜を品定めをするかのように下から上へと視線を這わせた。
「しっかし・・・・・・胸ねーなぁ・・・」
「あんですってぇ!?あんただってチビのくせに!人のこと言えんの!?」
胸のことを言われて切れてしまった舞夜は聖夜に反論をした。
「・・・んだとぉっ!?もういっぺん言ってみろ!このペチャパイ女!」
そしてチビ、という単語に聖夜も切れてしまった。
「言ったわねぇ!この超がつくほどのドチビがっ!!」
「〜〜・・・もう我慢ならねぇ表出ろやっ!女だからって容赦しねぇぞ!」
「あらあら、口で勝てないからって力でねじ伏せようというの?これだから万年ドチビは困るのよ」
あま
「んの、女〜〜〜〜!!!!」
聖夜がマジ切れ寸前で亜澄麻がストップをかけた。
「聖夜、試合が始まるぞ。ちゃんと撮っておけ」
「舞夜様、それくらいにしてください。楓さん達の試合、始まっちゃいますよ?」
「「!!」」
「そうだったわ、こんなことしてる場合じゃなかったわ!紅月の試合、見忘れるところだったわ!」
「そうだ!こんなことしてる場合じゃなかった!アイツらの試合のデータを撮らなきゃいけないんだった!」
ほぼ同時に喋る聖夜と舞夜。さすが双子である。
二人はハモったことに嫌悪感を覚えたのかすぐさまそっぽを向いた。
「はは・・・さすが、双子ですね・・・・・・・」
夏樹はそんな二人を暖かい目で見守っていた。
「『それでは―・・・出場者の皆様がお集まりになられたところでぇー試合を開始したいと思います。ではーレディーゴー!』」
司会者の合図で会場に集まった人達が一斉に動き出した。
「行くぞ!楓!」
「うん!」
そして楓、輪ペアも動き出し次々と相手の選手をなぎ倒していく。
「へ、これじゃあ覚醒しなくても楽勝だな」
輪はものすっごく余裕で裏拳を炸裂する。武器を使わず、素手で戦っているのだ。
「こっちのなよっちい奴から先にやっちまえ!」
大男の合図で2・3人で楓のことを襲い始める。
「!!」
楓はそれぞれの攻撃をかわし、絶妙なタイミングで銃を乱射する。
「おーい!また倒れたぞー引きずれー」
戦闘不能者回収班のスタッフが仲間に叫ぶ。
倒れた者達はすぐにスタッフ達が回収をしていくので、闘技場内は綺麗に片付いている。
「いるな・・・」
「何が?」
亜澄麻の呟きに舞夜が訊ねた。
舞夜は銀影で亜澄麻達、黒蝶とは敵対関係にある。
それで、何故、彼等の隣に腰を落ち着かせているというと、そこしか席が開いてなかったというのもあるし
昔のよしみで亜澄麻がボロを出して黒蝶のことを喋ってくれないかな、という思惑もあった。
亜澄麻はその答えに数秒黙ってから答えた。
「不死の者がこの闘技場に参加しているんだ」
「なんですって!?あの・・・!!?」
舞夜が思わず驚きの声をあげる。
「なんだ、知ってるのか」
「ええ。知ってるわ。顔は知らないけど・・・不死の者って言ったら有名だもの・・・・・・・」
舞夜は黙り込み試合の方をじっと、何か嫌な予感がしながら見つめた。
闘技場の方では三人だけがその場に立っていた。
一人は黒い服に包まれた銀髪の少年と赤い髪の少年。
そして・・・・・白い服に身を包んだ10歳くらいの子供だった。白い服には赤い血がべっとりとついている。
「こんな子供までこんな大会に出場してるなんて・・・」
「驚くところはそこじゃねぇだろ。ここまで生き残っているんだ。油断すんじゃねぇぞ」
「・・・わかってる」
楓は銃に弾を詰め込みながら頷いた。
「骨の強そうなのが残ったな。どっちが、我を殺してくれる?」
空気が、揺れた。
白い服の子供に強さを感じ取った輪は身にまとっていたマントを放り出す。
「何、言ってんだガキ。とりあえず、兄ちゃんが再起不能にしてやるよっ!」
「輪!?」
言うが早いか、輪は子供に向かって走り出し、飛び蹴りをしかけた。
しかし、その攻撃は簡単に避けられ、逆にナイフを投げつけられる。
それをマトリックス避けで避けて無事に難を逃れた。
「っぶねー…」
床に膝と手をつき、一息いれると、ベルトに差し込んでおいた愛用の銃をとりだす。
そして、白い服の子供を見つけると引き金をひこうとした。
グサァ
引き金を引く前に後ろから脇を刺された。
脂汗が、出てくる。
「案外、あっけなかったな」
「バカな・・・なんでそこに・・・・・・!!」
ズルッと輪に刺した短剣を引き抜く子供。
同時に、血が溢れる。
「お前が最初に避けたナイフに幻覚作用のある粉を塗っておいた」
「さっきのは…幻覚……」
先ほど照準を合わせた者は幻覚で、実際にはそこにはこの子供はいなかったのだ。
輪は短剣が引き抜かれると同時に倒れこんだ。
「輪!!!」
楓は倒れた輪を支え、しゃがみこんだ。
「血が・・・」
「そのままでは出血多量で死ぬな」
子供は無表情のまま冷静にことを見届けている。その間にも輪の傷口からは血がどくどくと流れている。
楓は輪の血がついた自分の手を呆然と眺めた。
―・・・血…………
「あ…あ………ぁ、あ……!!」
楓はベットリと血が付いた己の手を見つめ、発作のように呼吸が乱れだした。
―・・・血、血、血、血、血!!!
―・・・たくさんの人の血、血しぶき、死体、血の海・・・血塗られた身体・・・・・・・・・・・・・・
手が震え、冷や汗が頬を伝う。呼吸も荒くなっていく。
―・・・ヤダ!ヤダ!こんなの・・・!こんなの見たくない!怖い・・・・怖い・・・自分が・・・・・・・人をこんなに・・・・・・・・・・・
耳鳴りがし、頭が痛くなる。心臓の音が強く鳴り響く。
意識が遠のいていく。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン・・・・・・・・・・・・・・・・・ドクン・・・
ゆらり・・・と楓が立ち上がった。
「・・・棄権はしないんだな?」
子供は楓に聞いた。
楓はゆっくりと子供の方に向き直った。
「棄権?棄権するのはお前だろう。死にたくなかったらな」
子供は楓の瞳の色に一瞬驚き、口を開いた。
「ほお。まさか、こんなところで会えるとは思ってもみなかったな。月桂」
楓の瞳は血のように紅く染まっていた。覚醒を、してしまったのだ。
「もう、さよならだ。坊や」
月桂の紅い目が一際大きく輝くと、会場全体の熱が一気に奪われたかのように冷気が立ち上った。
「何!?何が起こったの!?」
座席に居た人全員がリングの方で何が起こったのかわからず混乱していた。舞夜もその一人だ。
月桂と化した楓の動きをビデオカメラ片手に持っていた聖夜も言葉をなくしていた。
「これが・・・月桂の能力・・・・・・」
ただ一人、亜澄麻だけが月桂の能力を目の当たりにして呟いた。
リングには、巨大な氷の柱が何本も何本も立っていた。
そのうちの一つの柱にあの白い服を着た子供が刺さっていた。
今は白い服が血で真っ赤に染まり、氷の柱からは血が滴り落ちている。
「ごふっ・・・!」
子供は一度、吐血をして震える手で自らの身体を氷の柱から引き抜いていく。
「・・・外したか」
その動作を淡々を見つめる月桂。
柱から身体を引き抜いた子供はそのまま地面に着地した。
「我を殺すなら・・・頭か心臓をやらないと・・・・・・我は死なん」
子供は先ほど受けた傷を月桂に見せる。
「なるほど、お前・・・不死の病に侵されているのか」
子供が見せた傷を見て月桂は言った。傷はもう出血が止まっていた。
月桂が言う、不死の病とは不治の病の一種だ。
遺伝子の突然変異で起こる、生まれついてからの持病・・・例としてあげるなら人よりも早く歳を取る病などがそうだ。
しかし、この子供の不死の病は人よりも遅く歳をとり、怪我をしてもすぐに血は止まり治癒してしまうのだ。
この持病を持って生まれてくる確立は何千万分の1で、病の発病は10代からだという。
いつしか、人はこの伝説とまでいわれる病のことを不死の病・・・と呼ぶようになったのだ。
「まさか、こんなガキが何百年も生きている、不死の者・・・ディラ・シャンリィだったとわ・・・・こんなところで会えるとは思ってもみなかったぜ・・・」
後方のほうで声がした。月桂は声がした方に顔を向けた。
そこには、荒い息をあげ、よろよろと立ち上がる輪の姿が映った。その瞳は黄金に染まっていた。
「生きていたのか、日輪」
「あんなんで死んでたまるかつーの・・・・・・って、お前なんで俺レの二つ名を・・・!?」
子供・・・ディラに刺された場所は皮膚が焼けだたれていた。恐らく、能力を使って止血したのだろう。
「・・・知ってても別にいいだろう」
と言ってそっぽを向く月桂。
輪はそんな月桂を見て、思ったことを口に出した。
「もしかして、お前、何か思い出したんじゃあ」
「どうやら、お前は何か勘違いをしているようだな。オレはオレだ。楓じゃない」
「は?」
何故か、話をはぐらかされた感も否めないが、とりあえず
月桂と化した楓は能力が向上してハイになって性格が違っているのではなく
本当に、別の性格…人格だということに輪は驚かされた。
輪と月桂を交互に見つめていたディラが口を開いた。
「“殲滅の日輪”と“紅の月桂”の二人に会うとはな・・・」
輪は視線をディラに戻した。
「しかし・・・日輪がこんなにも弱かったとは・・・少々残念だ」
「うっせ!卑怯な手を使った奴が言えた立場かよ!!」
「卑怯?これも一つの戦略だ。行き当たりばったりなお前には言われたくない」
「ああ」
月桂はディラに同意し力強く頷いた。
「とにかく!オレはお前に聞きたいことがある!何百年も生きているお前なら知っているはずだ」
「・・・何だ?」
「世界の真実だ!世界の真実を知ってるなら教えろ!この世界は今、何が起きようとしている!?何が起こっている!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・教えられんな」
「教えられらない・・・だぁ・・・?」
訝しげに言う輪。
「そうだ。・・・まったく、我は長生きをして世界の汚さにうんざりして死にたいと願っているというのに・・・」
そう言うとディラはリングから降り、出口へと向かっていった。
その瞳には今まで見られなかった光が差し込んでいた。
「おい!どこに行くんだよ!」
ディラはチラリと輪達の方に目を向けただけでさっさと会場を出て行ってしまった。
月桂もしばらく会場を出て行くディラを見送っていたが、何気なく客席の方へ目を向けると
見知った顔が3人いることに気づいた。
すると、心臓が一際高く、高鳴ったような錯覚が起きる。
それと同時に記憶が掘り起こされる。
“楓…って呼んでもいいか?”
“月桂・・・お前には役割がある・・・やってもらえるかね”
“紅月のその深紅の瞳…私は、好きだけどな”
“部外者が何のようだ”
“助けて・・・私を・・・・・・人間の手から、助けて・・・”
―・・・まだだ。まだ早い。・・・記憶の扉を開けるのは・・・早すぎる・・・・・・・
甦り始めた記憶にストップをかける月桂。
「クソ!せっかくの手がかりがっ・・・!でも、ここを離れたら賞金が・・・・・・・・・・うおお!!!月桂!?どうした!?」
いきなり、倒れた月桂を反射的に受け止める輪。
月桂は、深い眠りに落ちていた。
+++あとがき+++
やっと大会、終わりました・・・
そして、今回、月桂さんが出張っていましたね。
いや、そんなんでもなかったですか?そうですか・・・
そしてそして、久々にショロトルさんが登場いたしましたね〜
あぁ懐かしや、ショロトルさん。
今度はショロトルさん重視でおおくりすると思います〜