Revenge 〜復讐〜
会場を出たディラは思案しながら林の中を歩いていた。
ディラは早足で林を歩いていた。
『待て』
すると、林の中から一匹の青紫色の狼―・・・ショロトルが出てきた。
『探したぞ・・・!我が一族の仇っ!!』
「ワウルス族か」
林の中から出てきたショロトルにディラがそう呟いた。
「何故、我がお前の同胞を殺したと思うのだ?」
ディラは静かに、淡々とショロトルに訊ねた。
『血だ』
ショロトルはそれに答える。ディラは無表情のまま聞いていた。
『あの時・・・あの場所にはワウルス族の者ではない血の臭いがした』
「・・・・・・」
『そして、今日の楓との試合で負傷したお前の傷から出た血の臭いは、あの時の血の臭いと同じ臭いがした』
しばしの沈黙が訪れた。
そして、ディラがその無表情の顔に笑みを作った。
「あぁ・・・その通りだ。我がワウルス族を殺し、心臓を抜き取ったのは紛れもなく我だ。
今でも思い出せるぞ。右目に傷がある青狼が死にもの狂いで我に襲いかかってきたのを」
「!」
右目に傷の青狼・・・
ショロトルはその者に覚えがあった。
それは一族の長であり、ショロトルの父であった者のことだった。
『何の目的で一族すべての心臓を抜き取った』
ショックと怒りを噛み殺しながらショロトルはディラに問う。
するとディラは訝しげな顔をした。
「いいや・・・抜き取ったのは赤・青のワウルス族を合わせて100匹までだ。全部ではない」
『信じられん。ならば、その他の一族の心臓を抜き取ったのは一体誰だというのだ!?』
ショロトルは前足の爪を土に喰いこませ吠えた。
「信じる信じないはお前の自由だ。だがな・・・その人物には一つ心当たりがあるぞ。
我にワウルスの心の臓をを100個食えばどんな病でも治ると教えた者、かも知れんな」
静寂が辺りを包んだ。
ショロトルの震える声が響いた。
『それは・・・それを教えたのはどこのどいつだ?』
「・・・・・」
ディラはショロトルの質問にはすぐには答えず、数秒の間を開けてから一言だけ言った。
「知らん」
『は?』
思いがけない返答に思わず間抜けな声を出してしまうショロトル。
「知らんと言っている。耳が悪いのか?」
ディラの言葉にショロトルは小刻みに震えだした。
『白々しいのにも程がある!なんださっきの間は!?』
そう言うとショロトルはディラに向かって飛び掛った。一気にショロトルの中で何かが爆発したようだった。
ディラの無表情の顔にどこか焦りの色が表れだした。
「待て!本当に知らぬ!さっきのは記憶を掘り起こしていて時間がかかってしまったものだ」
ディラは言い訳をしつつもショロトルの攻撃を軽やかにヒラリ、ヒラリと舞うようにかわしていく。
『普通はその人物の特徴など少しでも覚えているものだ!』
「そんなことを言うても、我より早くに死んでしまう者のことなどいちいち覚えてられんわ」
ショロトルは気づいた。いや、気づかされた。
この不死の者は普通などではないということを・・・
「そろそろ、その物騒なものをしまってはくれぬか」
物騒なもの、というのはもちろんショロトルの尖った爪と鋭い牙のことを指している。
死にたがりが何を言うのか、と思いショロトルはディラの顔を思いっきり睨みつけた。
そのときに見たディラの目は先ほどの試合で見せていたこの世に疲れた目をしていなく、生気が満ち溢れていた。
それは・・・何が何でも生きようとする目だった。
『いいや、お前はここで仕留める!』
「御主・・・勘違いをしていないか?」
『!?』
ショロトルの動きが止まる。
「復讐のつもりか何か知らんが・・・我は雇われて殺したのも同然なのだ。普通は雇い主を殺そうとするものだぞ」
『その雇い主が分からないから、こうして目の前にいる
一族を殺した張本人を殺ろうとしているのがわからんのか!?』
ディラの言っていることも分からないまでもないが、ショロトルのこの怒りの内容にはまったくもって反論する余地がない。
「む!思い出したぞ!確か奴は“女”だった!」
タイミングを計って言ってる感じがしなくもない。
『大雑把すぎる!!!』
ショロトルの何とも言えない怒りはまたも爆発し、攻撃を再開した。
「しょうがない・・・やるしかないのか・・・・・・」
ショロトルは本能的に何かを察知し、ショロトルの能力の一部である“フェリング・アイ”を使い出した。
――・・・フェリング・アイ!
フェリング・アイを使った瞬間に数十秒の間の未来の出来事が一瞬の内にショロトルの脳に飛び込んできた。
フェリング・アイで見た数十秒の未来の出来事では
ディラが懐から小瓶を出しそれをショロトルに向けてふりかけ、それをもろに吸ってしまい
ショロトルが倒れてしまう、シーンだった。
ディラは懐に腕を入れると小さな小瓶を取り出した。
小瓶には何かの薬が入っているようだった。
ショロトルはさっき、フェリング・アイで見た光景みたくになってはたまるか、と
ディラから勢いよく離れ一気に間合いを開けた。
ディラはそんなショロトルには構わずに小瓶を開け空中にばらまいた。
『!?!』
小瓶の中身の薬をもろに吸ってはいないはずなのに、ショロトルの身体はその場に力なく崩れた。
「残念だったな。フェリング・アイを持ってしても未来は変えられなかったようだな」
ディラは勝ち誇ったような笑みをショロトルに向けた。
『お前・・・調合師だったのか・・・!?』
「いいや。長生きすると余計な無駄知識がつくものでな。薬の調合なんてお手の物だ。
先ほど日輪に幻覚を見せたのも我が調合した薬によるものだ」
ディラが話している間にもショロトルの具合は悪くなっていく。呼吸が荒くなる。
「ちなみにその薬は我がお前の一族を一掃したときに用いた薬だ。
その薬を空気中にばらまき、それを吸うと肺を攻撃し、肺から血が出、呼吸困難に陥る。
一族と同じ死に方が出来るのだ。さぞかし嬉しいだろう」
『・・・・っ』
どんどん呼吸が苦しくなっていき、意識が遠のいていく。
そんなショロトルにディラはショロトルの耳元でそっと囁いた。
「―――――」
ショロトルが完全に意識を手放した後で、ディラはまた林の中を歩き出した。
「さらば、紫の獣よ」
ショロトルのもとから離れさらに林の奥を歩き進んでいく。
グラリと視界が反転する。
「…血を流しすぎたか……」
ディラはそう一人ごちると、地面に倒れたまま瞼を閉じた。
ブロロロロロ…
林の中を失踪する一つのバイクがいる。
そのバイクの操縦者は機嫌よく鼻歌を歌っている。
「よ〜し、エンジン異常なし、ブレーキも異常なし、速度は最高!!」
ヘルメットも被らないで時速100kは超えるだろうスピードを出しながら
木々の間を縫うように走っていく。
素晴らしい運転テクニックの持ち主だ。
「この子の様子見でトバルシティまで来ちゃったけど、これからどうしよ…ん?」
何かを見つけたらしく、バイクを止めて地面に足をつける。
「あらら〜?何でこんなところに子供がいるの?しかも服が血で一杯!」
驚く観点がずれている。
スースーと寝息が聞こえるのでまず、死んではいないと確認をとる。
「・・・よく見ると、綺麗ね、この子」
寝ている子供を見ると、ポツリとそんなことを言い出す。
そして、何かを閃いたかのように顔中に笑みを浮かべた。
「そうだっ!この子、うちで預かって、逆、源氏物語っていうのも悪くは無いわね!」
そうと決まれば何とやら。
子供を抱きかかえ、バイクに乗せると元来た道を猛スピードで逆走していった…
ショロトルが目を覚ましたのは夕方近くになってからの宿の中でだった。
ショロトルはまだ完全に覚醒しきれてない頭であの時ディラに言われた言葉を思い出していた。
さっきのは嘘だ。安心しろ。みね打ちだ――・・・
ディラが何を思ってショロトルを生かしたのかはわからないが
これだけははっきりといえた。ショロトルはディラによって生かされたということを。
「ショロトル!起きたのか!賞金受け取った後
不死の者の血を追って林の中に入ったらお前が倒れてたからビックリしたんだぜ?」
ドアが開き、飲み物を持った赤い髪と赤い瞳が見えた。輪だ。
『そうか、お前が私を・・・』
「どうしたよ?まだ、顔色悪いじゃねぇか。つっても、お前の場合いつも青紫色の面してるけどなっ!」
ニシシ・・・と笑う輪。
「試合が終わった後、舞夜に聞いたんだが・・・あの場に何故か黒蝶の奴らが居たらしいんだよな。何が目的なんだか・・・」
輪は牛乳をコップに並々と注ぐと一気に飲み干した。
「プハー風呂上りの一杯は最高だなー」
思えば、輪の身体からは湯気があがっていた。
『・・・楓は?』
「あー楓ね。そこのソファで寝てる」
『そうか・・・』
ショロトルは銀影に乗り込んだときと同じような状況だったので、今度もまた楓の記憶が少しでも甦ることを期待した。
じっと、楓の寝顔を見つめるショロトル。
すると、何の前触れもなく楓がソファから起き上がった。
『!!』
いきなりの出来事なのでショロトルは思わず飛び上がった。
楓は顔を伏せたままソファから立ち上がりフラフラとした足取りで歩き出した。
「お、おい。どこに行くつもりだよ」
「・・・風呂」
楓は足元もおぼつかない感じで歩き続ける
ゴツ
楓が壁にぶつかり、鈍い音がした。
『大丈夫か!?』
楓は大丈夫、という風に手をヒラヒラと振り、また歩き出そうとする。
「見てらんねぇな〜もぅ・・・風呂はこっちだって!」
そんな楓に見かねた輪は楓の背中を押して、脱衣所へと連れて行く。
風呂へと案内し終わった輪がショロトルの元へと戻ってきた。
シャワー音が聞こえ始めた。
「なんか・・・雰囲気、違くなかったか・・・?」
『寝ぼけていたからではないのか?』
「そんなもんかなぁ・・・?」
う〜ん、と唸る輪にショロトルは声をかけた。
『アイツが・・・不死の者が私の一族を殺った犯人だった』
「・・・そっか」
『しかし、奴に私の一族のことを伝えた者がいるらしい』
「誰なんだ?」
『それが・・・本人に聞いても知らないらしい。ただ分かったのは性別が女、ということだけだ』
「なんだそれ、大雑把だなー」
ショロトルは小さく溜息をついた。
それと同時にシャワー音が止み、脱衣所から出てくる音がした。
「あぁ、さっぱりした」
タオルで髪を拭きながら輪達の元へとやってくる楓。
それに気づき輪とショロトルは楓の方に向いた。
『!?』
「なっ!どういうことだ!?なんで・・・」
「・・・?」
楓を見て驚いている輪達に不思議そうな顔をして輪とショロトルを見つめる楓。
「なんで・・・月桂のままなんだよ!?」
楓の瞳は気を失う前の・・・紅い瞳のまんまだったのだ。
+++あとがき+++
第9話、書き直し、やっと終わった。
これで次に進める…
ディラさん、以外とオチャメ(?)さんでしたね〜
そして、ディラ、誘拐(?)される!!
誘拐した犯人は待ちに待ったあの方です。
次回は例のあの方を輪達と絡ませますよ!
ま、とりあえず、次回もまた楽しみに待ってくだされば嬉しいです〜