Farewell 〜決別〜
ゴク・・・ゴク・・・ゴク
目を覚めて尚、月桂化している楓は飲み物を口に含んで喉を潤している。
「うむ。風呂上りのミックスオレはやはりいいな」
「いや、牛乳だろ」
ミックスオレを飲み終わり、一息ついた月桂に輪が自己主張をした。
月桂は輪の方へ向きを変えたかと思うと、いきなり輪に向かって蹴りをくらわしてきた。
「っぶねーな!いきなり何しやがる!?」
その攻撃を難なく受け止める輪だったが何だか痛そうだ。
「・・・・・・・1年も使っていないというのに、かなり動けるな」
月桂はそう言いながら、輪に繰り出した蹴りを引っ込めた。
『どうして、まだお前が出ている』
「・・・・・・・オレが出てはいけないのか?コレはオレの身体でもあるのに」
『しかし・・・主人格の方は楓なのだろう?』
「あぁ・・・そうだな。今は・・・」
「今・・・?」
月桂の含みのあるセリフに眉根を寄せて訊ねる輪。
「・・・今、楓は精神的に不安定だ。だから無理矢理、寝かせた」
「無理矢理かよ!!」
輪のツッコミなど気にしないでソファーにどかりと腰を落ち着かせる月桂。
『大物だ・・・』
そんな月桂を見てショロトルが呟いた。
「ま、こういう機会なんて早々無いだろうしな。今夜はたっぷりとお前の話を聞かせてもらうぜ」
「お前に話すことなど一つも無い」
しれっとした顔で言い放つ。
その態度に輪の顔は心なしか痙攣しているように見える。
『・・・逆に言えば、楓が知らないことをお前は知っていて、それをあえて私達には話さない、と?』
「・・・・」
「その無言は肯定と取るぞ」
「好きにしろ」
コイツ、苦手だ。
輪の頭にそんな言葉がよぎった。
「で、お前は何を知ってるんだよ」
「オレだって、全てを知っているわけじゃない」
「じゃあ、知っていることでいいから何か話せ。少しでも情報が欲しいんだ」
月桂は先ほどから首にぶら下げている鍵をいじりながら会話をしている。
輪はそんな様子の月桂を見ては苛立ちが募っていった。
―まるで、この会話がどうでもいいような素振りをしやがって・・・!!
いや、実際はそうなのだろうけど、だけど。
―コッチは真剣だっていうのに・・・!
チャリ、チャリ・・・
鍵を弄る音がやけに部屋に響く。
「お前達は真実を知って、何がしたい」
ふいに鍵を弄る仕草を止め、輪達に問いかけをした。
その問いかけに咄嗟に反応ができない輪。
―・・・俺は何がしたいんだ・・・?
「皆を騙し、裏で政府の奴等が何を企んでいるのか知ったら、お前達は何がしたい。知ったら、それで終わりか?」
ただ、漠然と隠されている事実を知りたいだけだった。
それは、探究心でもあり、好奇心でもある。
知る権利は、国民全員にあるわけで、それを押し隠すなんて、もっての他。
隠されれば隠すほど、その知的欲求は増していく。
だが―…
それを知って、その先どうするかは考えていなかった。
以前、自分が楓に言った言葉を思い出す。
―・・・もう普通の生活には戻れなくなるぞ
コイツは・・・月桂は俺達に忠告をしているのだ。
これから先、そのことに首を突っ込むともう、本当に後戻りはできないのだと。
月桂はそのまま言葉を紡いでいく。
「正直言って、お前達の勝手な知的探究心に、楓を巻き込んでほしくない」
ピシャリと言い放つ。
それは、只単に静かに平和に暮らしたいという思いが含まれていた。
確かに、自分達が楓を巻き込んだも同然なのかもしれない。
「けどよ・・・」
今まで黙って月桂の話を聞いていた輪が口を開いた。
月桂が輪の方に目を向けた。
深紅の瞳と目が合う。
「記憶がなくても、姿形はそのまんまだから、遅かれ早かれ絶対にお前等は巻き込まれてると思うぜ」
「そうだな。そうかもしれんし、そうじゃなかったかも知れないだろ。それは今でも言えることだ」
そう言うと月桂はソファから立ち上がり、バルコニーの方へと歩いていった。
窓を開けると、夜風の心地よい冷気が肌をなでた。
『待て、月桂。まさか・・・』
「その、まさかだ。お前達と一緒に行動していると、厄介だからな」
「厄介だ・・・?」
「・・・記憶が混同して混乱している。楓にとって過去の記憶は酷だ・・・」
『ということは、あの闘技場の時に何か思い出したのか』
「これ以上は楓のためにも、お前達とは別れる」
突然のお別れ宣言に思考が止まる輪。
慌てて、手すりに足をかけ、宿から出る準備をしている月桂に近寄ろうとするも・・・
「じゃあな」
引きとめようと伸ばした腕をするりとかわして、夜闇へと消えてしまった。
「クソッ!あの野郎、一体何のつもりだ!!そもそも楓の許可は取ってあるのかよ!!」
月桂がいなくなった部屋で悪態をつく輪。
そして、すぐに追いかけようとする。
ピロピリピーン
軽快な音が鳴り、輪の行動を邪魔する。
『輪。仕事が入ったみたいだぞ』
「なんだよ、こんな時に!!」
輪はバルコニーから出てコンパクトパソコンが置いてあるデスクへと向かった。
頭をわしゃわしゃと掻き毟りながら椅子を引っ張り、コンパクトパソコンを開き、メールを確認する。
差出人は “ suzana ” となっていた。
それを見るなり、輪は顔をしかめたがすぐさま本文を読んだ。
「スザナだぁ?もしかして、例のやつが完成したのか・・・?」
本文を読み進めていくうちに輪の顔が綻んでいくのがわかった。
『どうした』
「スカイバギーが出来たんだと」
『朗報じゃないか』
「ああ。これで行動範囲が格段にあがる」
スカイバギーとは二輪で走る乗り物で、最高50メートルの高さを飛行できるものだ。
道がちゃんと整備されていない場所でないと飛行は不可能だが。
それ以外は二輪で地面を走行することになる。
『取りに行くのか?』
「明日、出発する。トバルシティからスザナが働いてる私工場があるリューフェンスシティは近いからな」
輪は椅子をしまい、欠伸を一つすると寝室へと行こうとする。
そんな輪に声をかけるショロトル。
『楓はどうする・・・』
ピクリと反応する輪。
さっきは無意識のうちに追おうとした輪だったが、今はやけに冷静になっていた。
「もぅ、しょうがねぇだろ。今から追ったって、追いつけないだろうし」
輪は溜息を一つ漏らして続きを話した。
「俺の勝手な都合で楓の過去の・・・楓にとっては嫌な記憶を甦らせたりするのも、ちょっとな・・・って思うし」
辛い思いをしてまで、知る必要は無い。
他人を傷つけてまで、知る必要は無い。
輪はショロトルに顔を向けた。
「けど、やっぱりアイツ一人にはしておけない」
『黒蝶の件があるしな』
「ああ。それに、アイツが行きそうな所は何となく思い当たる節があるし」
『行きそうなところ・・・?あぁ。あそこか。確かに、あそこなら行きそうだな』
「だろ。だから、明日速攻でスザナに会いに行ってスカイバギーもらって、エンゲツの森に行くぞ」
言い終えた輪はくるりと踵を返し寝室へと行ってしまう。
ショロトルもまた、寝に入ろうと、ソファの上に寝転がって、寝に入ったのだった。
夜の町並みの中、月桂はどこへ行くでもなくただ、ただ、歩いていた。
―これから、どこに行こうか・・・
行くところなんて、どこにもない。
あるとすれば、やはりエンゲツの森で暮らしていたあの家だけか。
そう思い、月桂はエンゲツの森へと向かった。
夜明け前に黒蝶が尋ねるまで平和に、静かに、単調な時間を送っていた小屋に着いた。
トバルシティからこのエンゲツの森まで来るのにほぼ自分の足だけで来た月桂はかなり疲労していた。
だからかもしれない。
森の・・・草むらに、妖しい人影がいるのに気づけなかったのは。
ガサッ
とほんの小さな音を聞き逃さずに音がした方へと振り向くと同時に回りの草むらからガタイのいい男達が飛び出し、月桂を拘束しだした。
「っ!!」
疲労のために対処と反応が遅れた月桂は抵抗もできずに男達に捕まえられてしまった。
「何だ、お前達はっ・・・!!放せっ!!!」
身じろぎし、もがく。
すると、月桂の左側に居た男が懐から注射器を取り出して、腕に何かを注射した。
そこへ一人の高級そうなスーツに身をまとった男が月桂の目の前にやってきた。
その男を睨みつける。
「おやおや。初めまして、だね楓君?」
「誰だ、お前・・・」
「おや?メア・ロデウスから聞いていないのかね?まぁ無理もないか、息子を売る話なんぞ一般的に考えてするわけないしな」
「メア・・・・・・?」
メア、という名前に反応する月桂。
メアとは、かつて2年のほど自分を養ってくれた人で、母親的存在だったのだ。黒蝶に自分を売るまでは。
だが、この男の話を聞く限りでは、どうやらメアという女は黒蝶に自分を売るだけでなく、こんな奴にも売るという契約をしていたらしい。
なんて女だ・・・!
と、忌々しげに思い、歯軋りをした。
そして、あの女の思うようにさせるかと思い、また脱走を試みるも力が入らなかった。
「!!!?」
「無駄だよ。さっき、君に注入した薬は筋肉を麻痺させるものでね。下手な抵抗はできないだろう?」
「チッ・・・」
男は一歩一歩、月桂に近づいていく。
「私はプラズリー・レストロン。君のことはトバルシティでの闘技場で見かけたんだが・・・」
プラズリーと名乗った男は月桂の顎をとり、品定めをするかのように目を細めた。
「思ったとおり、君は素晴らしいね。いい商品になりそうだ」
「商品だと・・・?」
「ふむ・・・あの透き通るような青い瞳もいいが、今の血のような深紅の眼もいいな。・・・これは目玉商品になるぞ」
月桂の問いかけを無視し、自分の考えに浸っていたプラズリーは嬉々として、月桂から離れ、指をパチンと鳴らした。
それを合図に月桂を捕まえていた人物が月桂の首筋に手刀を落とした。
そのまま、なし崩しに倒れる。
「さて、この綺麗な商品を我が家につれて行くとするか」
ヘリコプターの騒音が辺りに響き、はしごが降ろされる。
月桂を抱えた男がそのはしごに捕まりヘリコプターへと乗って行く。
それに続いてプラズリーもはしごを登る。
二人を回収したヘリコプターは空高く舞い上がった。
+++アトガキ+++
はわわわ。久しぶりにオリジ小説を書きました。
書き直しでないやつはこの話がお初ですね、きっと。
楓君、なんだか、かわいそうなことになってきましたね。<お前がやったんだろ・・・!
さてさて、次はどうなってしまうんでしょうか!?
そういえば、今回の話には一つもギャグがない・・・あと、楓君が出てきてない。
なんでだ。<知るかっ!
次回はギャグにできるといいな・・・<話の展開的に出来るかどうかは疑問だが。
次回は必然的に楓君主体ですけどね。
とりあえず、メアは嫌な女として、皆さんに嫌われてほしいです。
くっそー!楓君をあんな風にしやがって!いつか必ず仕返してやるっ!
っていうのが魔利の本音です。皆さんはどんな感じですかね?
あ、そこまで感情移入してない?そうですか・・・
いつか、楓君とメアを再会さしてやりたい。
んで、楓君を精神的に追い詰めるんだ!<嫌やーこの子サドよー!!